今年で3回目を迎えた「小学生がえらぶ! こどもの本総選挙」(こどもの本総選挙事務局主催)。児童書出版の老舗・ポプラ社が2017年、創業70周年の記念事業として「子どもたちにもっと本を身近に感じてもらいたい」と企画したことから始まりました。
投票期間は2021年5月5日~9月10日の約4カ月間。全国の学校、公共図書館など1475団体が参加し、小学生の子どもたちが、今まで読んだ中で「いちばん好きな本」に投票しました。投票総数は16万8405票で、児童向けの読み物や絵本をはじめ、児童文庫、翻訳物、歴史物、ノンフィクションなど、幅広いジャンルの作品に票が集まりました。
「ぐりとぐら」がコンビのきっかけに!?
発表会ではまず、こどもの本総選挙事務局長の岡本大さんがあいさつしました。「投票を通して、子どもたちが新しい本と出会うきっかけを作り、本と出会う喜びを感じ取ってほしい。(上位10冊は)どの本も、子どもたちの好きがいっぱい詰まった、魅力あふれる本ばかりです。ぜひ、一人でも多くの子どもたちに知っていただけるとうれしいです」と総選挙への思いを語ります。
続いて「アンバサダー」を務める作家でお笑い芸人の又吉直樹さんが登場。司会者から「又吉さんは子どもの頃どんな本を読んでいましたか?」と聞かれ、「『ぐりとぐら』とか、絵本が好きでした。ぐりとぐらもコンビで活動していて、それが後々、ピースというコンビを組んでいくことに繋がっていきました。・・・・・・というのは嘘ですが、でも、仲間と一緒に冒険するとか発見するとか、そういう話が好きだったりしますね」と答えて、緊張感のある会場を和やかな雰囲気に包みます。
「スイミー」作者の孫からメッセージも
さて、いよいよ第10位から発表。得票数が重なり、2作品が9位に選ばれました。一つは『ほねほねザウルス ティラノ・ベビーのぼうけん』(原案・監修:カバヤ食品株式会社、作・絵:ぐるーぷ・アンモナイツ)。カバヤ食品の人気玩具菓子「ほねほねザウルス」をモチーフにした作品で、主人公ティラノサウルスの「ベビー」と、トリケラトプスの「トップス」、ステゴザウルスの「ゴンちゃん」が繰り広げる冒険物語。25作品続く人気シリーズです。
もう一作品には、ロングセラー絵本の『スイミー』(レオ=レオニ)が選ばれました。1969年の刊行以来、教科書にも掲載されるなど、世代を超えて愛され続けている作品です。受賞を受けて、当日は孫のアニー・レオニさんからコメントが寄せられるサプライズも。「小さなスイミーは世界中の子どもたちの想像の海を泳いできましたが、日本の子どもたちには特に、愛され続けていると実感しています。これからも本のある世界を楽しんでください」と出版社の代表者が読み上げると、会場からは拍手が起きました。
続く第8位は、作家ひのひまりさんのデビュー作『四つ子ぐらし① ひみつの姉妹生活、スタート!』。別々の場所で育った四人姉妹が一緒に暮らしはじめる物語で、シリーズ10作を誇る人気作。ひのさんは「これからも心躍るようなお話をたくさん書いていきたい。読者のみなさんにも四つ子ぐらしの四つ子ちゃんと一緒に、ドキドキわくわくしてもらえたらとても嬉しく思います」と受賞の喜びを語りました。
第7位には毎回ベスト10にランクインする人気作、ヨシタケシンスケさんの『りゆうがあります』が、第6位には『5分後に意外な結末① 赤い悪夢』が選ばれました。5分程度で読めて、最後には意表をついた結末が待っている、累計390万部を突破する大人気シリーズです。子どもたちからも「短時間でも読めるから、読書が苦手でも読みやすい。最後は本当に意外な結末だから面白い」(6年生)、「最後はどんでん返しが待っているとわかっていても、ひっかかってしまうから」(4年生)などのコメントが寄せられました。
ヨシタケシンスケさんの3作品がランクイン
吾峠呼世晴さん原作の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 ノベライズ みらい文庫版』が続く第5位に選ばれ、大ヒットした映画のノベライズ版が、小学生にも支持されました。第4位は、ヨシタケシンスケさんの絵本デビュー作『りんごかもしれない』が再びのランクイン。ここで「こどもプレゼンター」の白石真悠さん(3年生)の動画コメントが紹介されました。「主人公の男の子が机の上に置いてあったりんごを、いろいろと想像して、実は何かの卵かもしれないとか、主人公の男の子を捕まえるための罠かもしれないとか、考えているのがおもしろい。ひとつのことからたくさん想像を膨らませる様子が読んでいてワクワクして、楽しかったです」
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受賞を受け、ヨシタケさんは「今、なかなか思い通りにいかないこともたくさんあると思いますが、こういう捉え方もできるかもしれない、こういうふうにしたら面白くできるかもしれないと、いろんな可能性を考えるきっかけになってくれたらと思います」。ヨシタケさんは、『あるかしら書店』で続く第3位も獲得。動画でコメントを寄せた渡来なつめさん(3年生)は、「ヨシタケさんの本はクスって笑っちゃう絵がいっぱいあっておもしろいので、もっともっと読みたいです。どんどんヨシタケさんの本を集めて、ヨシタケさんの本の家にしたいです」とすっかりファンの様子でした。
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第2位には、今泉忠明さん監修の『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』が選ばれました。シリーズ累計445万部突破のベストセラー作品で、実は「こどもの本総選挙」の第1回、2回で1位を獲得していました。3度目の受賞となった今泉さんは「長い間、モグラとかコウモリとかネズミとかを調べてきてよかったなと思ってます。その時に得た知識がこの本に役立ってます。ありがとうございました」と感謝を述べました。アンバサダーの又吉さんも「今回、改めて読み返したんですけど、読み返すたびに気になるところが変わっていく。『甲羅に頭が入らない亀』は、前は『ああ、面白いな』というぐらいでしたが、今回は強烈に印象に残って。今の僕の何かを表しているのかな、帰るところなくなってんのかな、とか思いましたね」とその魅力を語ります。
「銭天堂」紅子さんが登場!
そして、新たに第1位に輝いたのは、廣嶋玲子さんの『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』でした。幸運な人だけがたどりつける、ふしぎな駄菓子屋を舞台にした物語。登壇した羽織姿の廣嶋さんは主人公の紅子さんに似ていて、作品から飛び出してきたかのよう。「子どもが選んでくれるという、こんな素敵な賞はないと思っておりました。その中で、1人でも選んでいただけたら本当にうれしいなと思っていたところ、なんと1位をいただけて、うれしくてうれしくてたまりません」と喜びを爆発させます。
又吉さんも「駄菓子屋という設定もわくわくしますし、運がよくなければ辿り着けないというところや、自分が欲しいお菓子がもたらす副作用みたいなものに手加減がないというか、ちゃんと怖かったりするところもいいですね」とコメント。「物語の最後に、主人公が出す硬貨の発行年が書かれていて、それが、自分が小銭を使う時に、もしかしたら入り口があるんじゃないかみたいな、日常から不思議な世界に入っていけそうな仕組みになっていて、年齢問わず楽しめる作品だと思いました」
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最後に又吉さんから子どもたちへ、メッセージが贈られました。「自分の好きな本のために行動を起こすということ、それって、想いの強さだと思うんですよね。その想いは人に伝わっていくだろうし、そういう強い想いがある人は、他の人が好きな本はどうなんだろうって想像する力があると思うんです。そうすると、どんどん読書の幅が広がっていく。『こどもの本総選挙』は、そうやっていろんな本と人をつなげていく、いい場になっていると思います。今、本当は外で遊んだり、友だちと遊んだりしたいと思うんですけど、家にいなきゃいけない時間とか、ひとりで過ごす時間が多くて、さみしい思いをしている子もいると思います。もしかしたら、普段は本をすごく読める時間ってあまりないかもしれないので、発想を変えて、今は本を読める時間なんだって前向きに捉えられる人は、そう思ってもいいのかなと。そんな簡単ではないかもしれませんけど、僕も、今しかできんことってなんだろうって、いろいろやってるんで、みなさんもぜひ工夫してもらいたいと思います」
第3回「こどもの本総選挙」ベスト10
- 1位 「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」(作:廣嶋玲子 偕成社 2013年)
- 2位 「おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典」(監修:今泉忠明 高橋書店 2016年)
- 3位 「あるかしら書店」 (作:ヨシタケシンスケ ポプラ社 2017年)
- 4位 「りんごかもしれない」(作:ヨシタケシンスケ ブロンズ新社 2013年)
- 5位 「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 ノベライズ みらい文庫版」(原作:吾峠呼世晴 著者:松田朱夏 脚本:ufotable 集英社 2020年)
- 6位 「5分後に意外な結末①赤い悪夢」(編:学研教育出版 学研プラス 2013年)
- 7位 「りゆうがあります」(作:ヨシタケシンスケ PHP研究所 2015年)
- 8位 「四つ子ぐらし①ひみつの姉妹生活、スタート!」 (作:ひのひまり KADOKAWA 2018年)
- 9位 「スイミー」(作:レオ=レオニ 好学社 1969年)
- 9位 「ほねほねザウルスーティラノ・ベビーのぼうけん」(作:ぐるーぷ・アンモナイツ 岩崎書店 2008年)
今回の「こどもの本総選挙」は、特別協賛に日本マクドナルドが加わったことを受け、投票1票につき1円が、病気の子どもとその家族のための滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」に寄付されました。またイベントを盛り上げてくれた3校(愛知県幸田小学校、広島県府中小学校、兵庫県小園小学校)と個人3人(米川ちまさん、島村健吾さん、大石芽衣さん)にはマクドナルド賞として、学校には今回選ばれたベスト10書籍が、子どもたちにはハンバーガー1年分が同社より贈られました。