木皿泉脚本の「すいか」を、何十回観(み)たかわからない。レトロな下宿で暮らす女4人の日常を描き、放送から約20年たってもファンに「心の避難所」として愛される、伝説的ドラマである。
シナリオ本を開くたびに、ほっと和(なご)み、励まされ、隠していた本音を言い当てられておどろく。世間が押しつけてくる「こうであるべき」をゆさぶり、心に刺さりいつまでも残る言葉の数々が、日々のふとした瞬間に立ち上がってくる。
「二〇年後、あなたは何をしていますか?」。街中でふいに問われ、幸せな未来を思い描けず呆然(ぼうぜん)とする、煮詰まった信用金庫職員の基子は、当時の私だった。何かを選んだことで失敗して恥をかいたり、仮に不幸になっても、自分で責任をとって生きていく。40歳近くなって、畑違いの仕事から本の編集に挑戦するさい、そう腹をくくることができたのは、この作品に出合ったおかげだ。
プロデューサーの河野英裕さんに思い切ってツイッターで話しかけたことから夫婦脚本家のおふたりとお会いでき、〈木皿泉をつくったもの〉を書いていただいたのが、エッセイ集『ぱくりぱくられし』である。
「お墓って、人類の発明よね/死んだ人のことを、忘れないように/でも、安心して忘れなさいという為に、作られたものだと思うわ」(第9話)
妻の妻鹿年季子(めがときこ)さんは、修行時代に「お墓の中に入ったつもりで書け」と言われたというが、その台詞たちは「死」の側から「生」を眺めているようなきらめきを放っている。=朝日新聞2022年2月9日掲載