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「助産雑誌」 不安に寄り添う、助産師の奮闘

助産雑誌

 助産雑誌と聞いて、出産に関する情報を妊婦に提供する雑誌かと思いつつ読んでみると、助産師のための雑誌だった。

 助産師は、以前は産婆さんなどと呼ばれていた。日本では女性しかなることができない職業のようだが、産婦人科がある時代にどんな役割を担っているのだろう。そもそもどこにいる人なのか。助産院? しかし助産院の看板を見ることも最近は少なくなった。

 かつて長男の出産に立ち会った際、妻のそばに産婦人科医でも看護師でもない女性が付き添っていて、息子を取り上げてくれた。私はそのとき初めて助産師が産婦人科にもいることを知った。その役割が産婦人科にとって替わられたわけではなかったのだ。

 助産雑誌は昨年までは月刊誌だったのが、今年から隔月刊になったようだ。その分ぶ厚くなり、表紙もリニューアルされている。

 最新号の特集は「COVID―19流行下の助産ケア」。新型コロナの流行に対応するための感染予防対策、それにより妊婦や母親が孤立してしまうことへのケアの必要性など、助産業界はかつてない大きな問題に直面しており、特集では多くのページを割いて実践報告記事を載せている。

 ただでさえ不安になりがちな出産前後の母親にとって、他の妊婦との交流ができないことや、家族とも会えなかったり、退院までは赤ちゃんにも触れることができないような状況は、相当なストレスだろう。それだけでなく、妊婦の陽性が確認されると、無症状でも帝王切開を行う方針の病院もあったようで、人権侵害ではないかという医療者の声も紹介されていた。

 読むほどにパンデミック下での出産の苦労と、それに立ち向かう助産師たちの奮闘ぶりに頭が下がる。

 課題はパンデミックだけではない。最新号ではたまたま休載していたが昨年10月号の「経験から学ぶ助産ケア」という連載記事には考えさせられた。夫婦の関係が何か変だと感じた助産師のサポートによりDV夫との縁を切ることができたという妊婦の話で、出産をとりまく家族の問題も一筋縄ではいかない。

 そうした困難に向き合う大変な助産師ではあるけれど、基本は喜び事に関わる仕事であり、本誌でも表紙の双子を抱く夫婦の笑顔に癒やされた。現在の妊婦が置かれた大変な状況を知ればなおさらだ。お母さんもお父さんも子どもたちもみんな幸せになってほしい、そんな助産師の思いが伝わってくる。=朝日新聞2022年3月2日掲載