第166回芥川賞・直木賞の贈呈式が先月24日、都内で開かれ、3人の受賞者が個性あふれるスピーチを披露した。
芥川賞の砂川文次さんは「めちゃくちゃ緊張しているんで」と壇上で大きく屈伸、「そうりゃー」と大声で気合を入れてから話し始めた。「現代のプロレタリア文学」とも評された『ブラックボックス』(講談社)について、「インタビューで『何か怒ってますか』と聞かれるんですけれど、怒ってないわけないじゃないすか!」と述べた。
直木賞2作はいずれも戦国の世の籠城(ろうじょう)戦を舞台にした物語。『塞王(さいおう)の楯(たて)』(集英社)の今村翔吾さんは、目標にしてきた直木賞に決まってからのひと月、悩み続けたという。
「夢がかなうという言葉には光と闇がある。がんばれば夢がかなうと言い続けることは無責任じゃないか、と。ただ僕自身は光の部分だけを語る男であればいいのかなと。いくらきれいごとだと言われても、夢はかなうと語り続ける男でいたい」
米澤穂信さんは悩みつつ書き進めた受賞作『黒牢城』(KADOKAWA)の執筆過程について語り、こう締めくくった。
「戦争と、戦争で死んでいく者たちを扱って小説を書きました。もしかしたらこの世から戦争が無くなる日は来ないかもしれない。平和とは戦間期の言い換えにすぎないのかもしれない。しかし、すべての戦争が一日でも早く終わり、悲しむ者、傷つく者が一人でも少なくあることを心から祈ります」(野波健祐)=朝日新聞2022年3月2日掲載