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国立国語研究所〈編〉「日本語の大疑問 眠れなくなるほど面白い ことばの世界」 難しい?簡単?懐は深い

 日本語学・言語学の専門家が集う「国立国語研究所」。一般から寄せられた日本語についての疑問に、国語研の関係者が丁寧に答えているのが本書です。巻末の執筆者リストを見ると、この方々に任せれば間違いない感が漂っています。

 例えば意外だったのは「『あのー』や『えっと』が多い人は話し下手なんでしょうか」という質問への答え。実は場つなぎ表現が多い講演の方が「表情豊か」「流暢(りゅうちょう)」と、聞き手に良い印象を与える傾向にあるそうで、まさに潤滑油です。ただ使いすぎると落ち着きがない印象に……。「お書きください」と丁寧な言い方なのに失礼な感じがするのはなぜか、という質問も。日本人は「○○ください」と直接的に言わず、「○○してもらえませんでしょうか?」と、頼みにくいことを頼んでいるような表現を使って微調整している、という答えでした。「それから」「そして」「それで」の違いを問う質問に対しては、「『そして』の後には重要度が高い情報がくる」とのことで、日本人は無意識のうちに使いこなしていそうです。

 空気を読んで使い分ける場面が多く、漢字やひらがな、カタカナ、ローマ字と何種類も表記がある日本語は、世界でも有数の難しい言語なのでは?と勝手に自負していたのですが……。「日本語は難しい言語ですか」という質問の答えは、「音声」「文法」は簡単、とのことでした。でも「語彙(ごい)」と「表記」は複雑で難しく「シンプル、エレガント、無駄のないパターンで文が作れる」日本語は「“頭の良い”言語」と、ドイツ人の教授が評価していて留飲が下がりました。

 スマートな上、懐が深い日本語。実は言いまちがいだった「新しい(アタラしい)」(元々はアラタしい)といった言葉が音位転換で定着したり、文法特質から外来語や新語を受け入れやすかったり、絵文字を発明したり、底知れぬ包容力が。そんな日本語を使う日本人も、言語の持つ長所を備えている、と思いたいです。=朝日新聞2022年3月12日掲載

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 幻冬舎新書・1012円=7刷6万3千部。21年11月刊。「本書を面白いと思った書店員の方々が店頭で大きく展開してくれたのを機に、幅広い世代に広まっていった」と担当編集者。