1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 「ニセ姉妹」など兄弟・姉妹について考える3冊 新井見枝香が薦める新刊文庫

「ニセ姉妹」など兄弟・姉妹について考える3冊 新井見枝香が薦める新刊文庫

新井見枝香が薦める文庫この新刊!

  1. 『ニセ姉妹』 山崎ナオコーラ著 中公文庫 858円
  2. 『めぐり逢(あ)いサンドイッチ』 谷瑞恵著 角川文庫 704円
  3. 『私以外みんな不潔』 能町みね子著 幻冬舎文庫 660円

 (1)高額宝くじが当選した正子は、なるべく壁のない「屋根だけの家」を建てた。離婚して1歳の息子と暮らす正子を心配して、姉の衿子(えりこ)と妹の園子がそこに住み着くが、さらに正子の友人である百夜(ももよ)とあぐりが加わったことで、正子は抱いていた疑問に自分なりの答えを見つけていく。《私、お姉さんたちとは別に、姉妹になりたい人ができたの》。昔と違い、結婚相手も親も子どもも自分で選べるのに、どうして姉妹は選べないのか。自分の考えが一般的ではないと十分理解した上で自分らしく生きる正子に、希望しか感じない。

 (2)姉の笹子が作り、妹の蕗子(ふきこ)が手伝う小さなサンドイッチ専門店「ピクニック・バスケット」。ある日、店の人気商品である「タマゴサンド」が公園のゴミ箱に捨てられていたことを知り、犯人を探しだそうとする蕗子。対して、その人が食べたいタマゴサンドを作ろうとする笹子の、補い合う姉妹の役割分担が心地よい。

 (3)北海道から茨城の幼稚園に転入した5歳の「私」が、卒園するまでの物語。小鬼のような園児たちと馴染(なじ)めない「私」だが、単純に冷めた子供というわけでもない。姉と弟と積み木遊びで大笑いする「私」は、家族の中で子供である。どんなに嫌でも「そうなっていること」には従うという思考や、先生についてきてもらわないとトイレにも行けない自分への情けなさは、彼の大人っぽさではなく、気高さであり、人格なのだ。大人が綴(つづ)れば消えてしまう何かがむしろ全てのような、得難い私小説。=朝日新聞2022年3月12日掲載