1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 大河ドラマの旅行ガイドにもなるアンソロジー「読んで旅する鎌倉時代」など澤田瞳子が薦める新刊文庫3冊

大河ドラマの旅行ガイドにもなるアンソロジー「読んで旅する鎌倉時代」など澤田瞳子が薦める新刊文庫3冊

澤田瞳子が薦める文庫この新刊!

  1. 『ベルリンは晴れているか』 深緑野分(ふかみどりのわき)著 ちくま文庫 990円
  2. 『読んで旅する鎌倉時代』 高田崇史ほか著 講談社文庫 737円
  3. 『幕府軍艦「回天」始末』 吉村昭著 文春文庫 726円

 (1)時は一九四五年七月。ドイツの降伏によって連合国の統治下に置かれたベルリンにて、十七歳のドイツ人少女・アウグステは謎の殺人事件に巻き込まれる。被害者の死を彼の甥(おい)に告げるべく、様々な過去を背負った人々と旅をする主人公。過去と現在を行き来する構成によって骨太に織りなされるロードノベルにしてミステリ、そして戦争によって暴かれる人間の生きざまを直視した普遍性ある歴史小説である。

 (2)近年、歴史時代小説アンソロジーの人気は高まる一方だが、一冊に十三作もの短編が収録された書籍は珍しい。しかもそれが現在放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」ゆかりの各地を舞台とし、タイトル通り、本書を手に旅が出来るとなればなおさらだ。倅(せがれ)の眼(め)から見た熊谷次郎直実(なおざね)(吉森大祐「ある坂東武者の一生」)、鎌倉屈指の武士・朝比奈三郎義秀の懊悩(おうのう)と旅立ち(天野純希「由比ガ浜の薄明」)などを通じて鎌倉時代をより深く学べる上、各地の写真に交通案内、更に地図まで収録された贅沢(ぜいたく)な一冊。

 (3)戊辰戦争の際、榎本武揚に率いられて江戸から函館に向かった幕府軍艦・開陽丸の名は人口に膾炙(かいしゃ)しているが、その僚艦・回天丸について知る人は少ない。本作はそんな回天丸が仕掛けた奇襲・宮古湾海戦の諸相を蘇(よみがえ)らせた物語。通常の歴史小説なら大きく紙幅が割かれるであろう新選組隊士の活躍は最低限に止められ、あくまで回天とその戦いに主眼が据えられており、筆者の特色たる丹念な取材と事実主義が存分に堪能できる。=朝日新聞2022年3月19日掲載