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「大人も知らない? ふしぎ現象事典」 誰もが持つ心のクセを解説

 私が専門とする精神医学や臨床心理学では、主に「心の病」や「心の問題」に取り組んできた。ところが最近、病や問題がなくても、人間の心にはもともと不思議なクセがあることがわかってきた。

 たとえば「このままでは電力不足で停電です」と警報が出ても、「このあたりはいつもだいじょうぶ」と節電しようとしない。考えてみればこれも奇妙だ。

 この『ふしぎ現象事典』では、そんな誰もが持ってる心のクセを取り上げ、医学や心理学がその現象につけた名前を紹介し解説する。ちなみに電力警報が出ても都合のよいできごとばかり取り出してスルーするのは、「確証バイアス」と呼ばれる。本書にはそれもちゃんと出てくる。

 誰にでもあてはまる言葉なのに占いで言われると「私のことだ!」と思い込むのは「バーナム効果」、天井に三つ点があるだけで「人の顔に見える」とおびえるのは「シミュラクラ現象」、「期間限定」と言われるとほしくなるのは「希少性の原理」、アルミホイルかんで歯がキーンとなるのは「ガルバニー電流」。いろいろな用語に「へえ!」と驚きながら「これって誰にでもあることなんだ」と気づいたら、これからはいちいちそれらの現象に振り回されず、少し心の余裕が生まれるのではないか。

 実は本書に出てくることの多くは「認知バイアス」と呼ばれており、類書もいくつか出ている。ただ本書は断トツにおもしろくてわかりやすく、「私もこんな本が書きたかった」と嫉妬してしまうほどだ。子ども向けだが、さまざまな情報があふれてどれを信じたらよいかわからなくなっているいま、おとなにこそ読んでもらいたい。

 大ヒット中の本書、「売れてるみたいだから私も買わなきゃ!」と思ってしまう現象は「バンドワゴン効果」だと本書に書かれているが、それで買っても絶対損はない。ぜひどうぞ。=朝日新聞2022年3月26日掲載

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 マイクロマガジン社・1100円=5刷5万部。21年7月刊。「書店では『ざんねんないきもの事典』と並べられていることもあり、親子で読まれているようだ」と担当編集者。