東日本大震災から10年となる昨年春に連載が始まった作品。舞台は福島県と思われる小さな村。農業によって土地と深く結びついていた人の暮らしぶりが、被災によって変貌(へんぼう)していくさまを、役場の職員として働く主人公の目を通して描く。
今も続く厳しい被災状況の中、マンガを作る側からすると、相当の覚悟がないと取り組めない重いテーマだが、著者はそれを真正面からドラマとして描く。エッセーやルポ形式のマンガなら、まだ自分の経験や見聞の範囲でも描けるが、この作品はあえて創作された物語という表現を選んでいる。より高いハードルに挑んで、さまざまな葛藤があったことと思うが、できあがった作品は人の心にまっすぐ伝わる印象深いものとなった。
地味な絵柄や、節度ある表現、オーソドックスなキャラクター造形など、表面的には奇をてらったところがない、おとなしい雰囲気の作品だ。だからこそ、その奥底で作品をつき動かしている力強い何かがじわじわと読む者に迫ってくる。この描き方でなければ、この感銘は生まれなかっただろう。この世界を描ききろうとする著者のひたむきさが、強く心に残った。=朝日新聞2022年4月2日掲載