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小島庸平「サラ金の歴史」 前向き需要、見失った姿映す

 かつて隆盛を誇ったサラ金は、高金利と強引な取り立てで多くの人を自殺にまで追い詰めた。本書はその重い事実を確認しつつも、背景をなす貸し手と借り手の歴史を丹念にたどる。そこから見えてくるのは、金を貸すという行為の生々しさだけではない。成長に向けた「前向きの資金需要」を見失っていく日本の金融構造の変質までもが、サラ金の変化と二重写しに、はっきりと描かれている。

 古今東西、金融の要は借り手の返済能力の見極めだ。サラ金のように個人相手に無担保で金を貸す業者たちも、その点で「合理的」な技術革新を続けてきたというやや意外に見える指摘に、まずは引き込まれる。

 例えば高度成長期の「団地金融」は、入居審査の厳しい団地住まいを目安にし、草創期のサラ金は「融資申込者の勤務先を上場企業に限っていた」。背景には「社内外のつきあいのための金は、出世のための『健全資金』と言えた」世相もあった。

 だが1970年代以降、サラ金は信用審査の基準を緩め、「後ろ向き」の資金需要も取り込んで規模を広げる。支えたのは、業界内での信用情報の共有や団体信用生命保険の活用といった「技術」と、大企業に代わる貸出先を探していた銀行から流れ込む低利の資金だった。

 規模拡大は返済に困る人を数多く生み、景気後退と雇用悪化の波が高まる度に、繰り返し社会問題になる。被害者や弁護士らの運動を経て、高金利が最終的に許されなくなったのは、10年あまり前のことだ。テレビCMや駅前の光景にあふれていたサラ金の姿は、表舞台から急速に消えていった。

 しかし、金融がときに凶器に化す火種は絶えてはいない。著者は、SNSを使った違法に近い個人間金融や、信用力をデジタル技術で点数化する「技術革新」の行方に注意を促す。サラ金の存在が単なるあだ花ではないことを知らせてくれるからこそ、本書は、多くの読者から高い評価を得ているのだろう。=朝日新聞2022年4月2日掲載

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 中公新書・1078円=5刷5万1千部。21年2月刊。サントリー学芸賞、新書大賞2022。「気鋭の経済史・農業史研究者による異色のテーマが目を引いたのかも」と担当者。