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戦争をめぐる秘話、今に重なる 「ニッキーとヴィエラ」ほか、子どもにオススメの3冊

「ニッキーとヴィエラ―ホロコーストの静かな英雄と救われた少女」

 第2次世界大戦直前、迫り来るナチスの魔手から子どもを救おうとした人たちがいた。イギリス人のニッキーもそのひとり。旧チェコスロバキアにいたユダヤ人の子どもを列車でイギリスへ逃がすために奔走した。10歳の少女ヴィエラは、家族と別れて列車に乗った669人のひとり。終戦後ニッキーは、自らの功績を語ることなく静かに暮らしていたが、2人は後に再会する。チェコで生まれ、自由を求めてアメリカに移住した作者は、これまでダーウィン、ガリレオなど勇気ある偉人について描いてきたが、今回は、良心に従って行動したほぼ無名の人物を取り上げてノンフィクション絵本に仕上げた。絵が語るものをじっくり見ていく楽しさもあるし、今の時代にも重なる。(ピーター・シス作、福本友美子訳、BL出版、税込み2420円、小学校中学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】

「彼の名はウォルター」

 週末の遠足でグロルステンという歴史的な町へ出かけた子どもたち。乗っていたミニバスが途中で故障し、フィオーリ先生と4人の生徒は田舎道で立ち往生し、丘のてっぺんにある2階建ての古い屋敷で一晩を過ごすことにした。屋敷の中にあった書き物机から、コリンは表紙に『彼の名はウォルター』と書かれた手書きの本を見つける。不安な夜をその本を読み合うことで切り抜けようとするが、物語の世界が現実に侵食してきて、いいようのない恐怖感に包まれていく。スリル満点のストーリー展開に身がすくむ思いがした。(エミリー・ロッダ著、さくまゆみこ訳、あすなろ書房、税込み1760円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】

「はっぴーなっつ」

 ベッドでまどろむ女の子。目覚める前に耳を澄まします。最初は鳥の声、次にやさしい風の音。耳はだんだん遠くへ旅に出て、やがて「おはよう! 春ですよ!」と目を開かせてくれます。夏の始まりはにおいと光、秋は降り積もる色。体はここにあっても、五感を開いて心を放てば、巡る季節を感じられます。絵本の場面展開の中に用いたコマ割りとふきだしのセリフが効果的。時間をゆっくりていねいに刻み、世界のあちこちに潜む幸せなつぶやきを読者に直接語りかけます。(荒井良二作、ブロンズ新社、税込み1540円、幼児から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】=朝日新聞2022年3月26日掲載