1. HOME
  2. コラム
  3. 新書速報
  4. 利己的人間の歴史をひもとく「ホモ・エコノミクス」など三牧聖子が選ぶ注目の新書2点

利己的人間の歴史をひもとく「ホモ・エコノミクス」など三牧聖子が選ぶ注目の新書2点

『ホモ・エコノミクス 「利己的人間」の思想史』

 「あなた方の関心は経済ばかりだ」。ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシアとの経済関係を断ち切れないドイツを批判した言葉だが、どう答えるべきか。「正論だが、利益の追求は人間の自然で、変えようがない」。そう言葉を濁す人は多いかもしれない。

 重田園江『ホモ・エコノミクス 「利己的人間」の思想史』(ちくま新書・1034円)によれば、損得勘定を第一に考える人間は自然ではない。本書は、「利己的人間」という人間像が生まれ、人間の在り方を強く規定する規範となるまでの歴史を描く。貪欲(どんよく)が跋扈(ばっこ)する現代社会への著者の絶望は、思想史の手法を通じ、異なる社会への希望へ昇華させられる。
★重田園江著 ちくま新書・1034円

「タリバン台頭 混迷のアフガニスタン現代史」

 アフガニスタンでも人道危機が続くが、メディアはタリバンの「恐怖政治」復活を集中的に報じた後、関心を失ったかのようだ。青木健太『タリバン台頭 混迷のアフガニスタン現代史』(岩波新書・924円)は、激動のアフガニスタン現代史のなかでタリバンが生まれ、台頭する過程を丹念に描く。欧米とは様々に異質な価値を奉ずるタリバンだが、彼らを完全に排除した統治も非現実的だ。青木は、アフガニスタンの内発的な発展を根気強く見守るよう説く。非リベラルな国家や集団といかに向き合うかの示唆にも富む。
★青木健太著 岩波新書・924円=朝日新聞2022年4月23日掲載