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悲劇性がきわだつ「女王ジェーン・グレイは九度死ぬ」など谷津矢車が薦める新刊文庫3冊

谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『女王ジェーン・グレイは九度死ぬ 時戻りを繰り返す少女と騎士の物語』 藍川竜樹著 二見サラ文庫 858円
  2. 『晴明の事件帖(ちょう) 消えた帝と京の闇』 遠藤遼著 ハルキ文庫 792円
  3. 『お師匠様、出番です! からぬけ長屋落語人情噺(ばなし)』 柳ケ瀬文月著 ポプラ文庫 836円

 今回は「エンターテインメント×歴史時代小説」というテーマで選書。

 悲劇的な人生ゆえに、しきりに絵画・文芸分野で題材に取り上げられてきた英国初の女王、ジェーン・グレイ。彼女を主人公にした(1)は、主人公がバッドエンドを迎える度に過去に戻り人生をやり直す「ループもの」の物語設定によって、彼女の悲劇性が際立つ仕組みになっている。歴史に翻弄(ほんろう)され、過酷なる人生を運命づけられた少女は果たして幸せになれるのか。エンタメであるゆえに到達できる救いが本書にある。

 平成年間の安倍晴明ブームによって「晴明もの」と呼ぶべきジャンルがエンタメ分野に根付いて久しい。(2)はそんな豊かな土壌から生まれた新たな「晴明もの」である。なんといっても新しいのは、陰陽師・晴明の相棒に日記『小右記』の作者、藤原実資(さねすけ)を当てたことにある。日記=歴史の書き手である実資によって、先行作品とは異なる光彩が陰陽師という存在に与えられている。話の途中から晴明永遠のライバル、蘆屋道満(あしやどうまん)が登場。哀調際立つ道満の人物造形も本作の読み所の一つ。

 堅物の武家の娘が訳あって噺家(はなしか)の烏骨亭邑楽(うこつていゆうらく)に弟子入りするところから始まる(3)、おきゃんな主人公伊予、ひょうひょうとした邑楽の掛け合いが微笑(ほほえ)ましい。人情時代小説の勘所を押さえつつも、少女小説や少女漫画といったジャンルの影響を強く感じる。時代小説を読んでみたいけれど、なにを読んだらいいかわからない人におすすめしたい。=朝日新聞2022年4月23日掲載