今までありそうでなかった世界観
――まずは玉木さんが原作を読んだ感想を教えてください。
元極道の厳つい見た目が残ったまま家事をこなす専業主夫という原作のシュールな世界観は、今までありそうでなかったと思うし、すごいところに着目した作品だなという印象を受けました。龍の見た目と行動のアンバランスさや、周りの人たちが龍のことを勘違いして勝手に妄想しているのが面白いですし、洋服の染み抜きの仕方など、家事の工夫や方法が描かれていてあっという間に読みました。
――本作ではある日、龍の家の前に置き去りにされた男の子をめぐって、隠し子騒動などのすったもんだが繰り広げられますが、龍たちはその子を家族としてすんなり受け入れています。
普通だったら「この子をどうしたらいいんだ?」と思うかもしれませんが、龍は困っている人がいたら「自分の力で助けよう、救おう」とする優しさを持っているので、突然目の前に現れた男の子に対しても、何の疑問を持たず素直に受け入れたんだと思います。その素直さは、龍を演じる上で意識していましたし、「家族思いで愛情深い」ということが龍を突き動かしている原動力であり、このキャラクターが成立している部分でもあると思うので、「自分が何とかしてあげないと」という思いは常に忘れないよう心がけていました。
――作中には「子育てって大変だけど楽しい」といったセリフが出てきますが、玉木さんもそんな風に思うことはありますか。
家事や育児も、中々自分の思い通りにはいかないことがあって大変だと思うのですが、思い返してみると楽しいことしか覚えてないんです。今うちの子が「イヤイヤ期」に入りつつあるのですが、子どもが楽しそうに笑ってくれるその一瞬だけで、悩むことや大変なことがかき消されて「嬉しいこと」や「楽しいこと」が更新されていくんです。子どもにはそんな不思議な力があるなと実感しています。
本当に悪い人はほぼいない
――龍の元舎弟・雅(志尊淳)、元伝説の極道で武闘派の虎二郎(滝藤賢一)に加え、映画ではイタリアかぶれのマフィア(吉田鋼太郎)や、元レディース総長の虎春(松本まりか)らが新たに登場し、保育園を狙う極悪地上げ屋との対峙や、龍を巡る恋愛バトルなどが勃発します。各キャラクターたちの見た目と言動のギャップやボケっぷりなど、マンガらしい展開も本作の魅力のひとつですね。
龍も含め、この作品に出てくる人たちは、見た目は怖くて悪い人に見えるけど、本当に悪いことをしている人はほぼいないんです。そこが見ていて気持ちいいところだし、コロナ禍で窮屈な時間が多い中で、本作のような純粋に笑ってもらえるエンターテインメント性の高い作品はとても大事だと思っています。
それに僕は「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のような「見ていて安心する感じ」や、ずっと変わらずに存在している世界みたいなものが、この「極主夫道」にもあるような気がしているんです。
――カーチェイスなど、派手なアクションシーンも多かったですね。
映画化するにあたって、僕が少し懸念していたのはスケール感でした。映画は大きいスクリーンで観ていただくものなので、どんなストーリーになるのかなと思っていたのですが、いざ台本を読んでみたらアクションシーンが意外と多かったので、あとはこれまで通り「龍」という役に臨むだけで大丈夫だと思いました。
僕と監督は同世代なのですが、二人とも子どものころにジャッキー・チェンの映画をよく観ていたんです。ジャッキーの作品は激しいアクションシーンがたくさん出てくるのですが、なぜか笑いの部分しか記憶に残らないんです(笑)。そういうライトな作品が日本から発信できればいいなという思いが監督にもあったようです。今作のエンドロールでNG集を流しているのですが、それもジャッキー作品のオマージュのようになっているので、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
原作に近づけて演じたい
――玉木さんといえば、「のだめカンタービレ」の千秋先輩も印象的でしたが、原作もののキャラクターを演じる時に心がけていることはありますか。
原作が題材になっているということは、当然絵があるので、できるだけそれに近づけて演じたい。その方が僕自身も役のスイッチが入る気がするし、自分がキャラクターに近づいていく安心感があると思います。
あとは、原作と台本どちらも読んでいけば役をつかむヒントはどこかにあると思うので、原作があるものに出演する時は必ず読むようにしています。
――普段、読書はされますか?
撮影の合間で時間がありそうな時は、書店に行って気になったものを手に取ることはあります。最近だと、カツセマサヒコさんの『夜行秘密』(双葉社)という小説を読みました。エピソードがたくさん分かれていて、それがどんどんつながっていく展開が非常に面白くて、映像にもしやすそうな作品だなと思いました。
――そのほかに印象に残っている作品を教えてください。
森絵都さんの『ラン』(KADOKAWA)や、山田悠介さんの『レンタル・チルドレン』(幻冬舎)ですね。『ラン』は、事故で家族を亡くした女の子が、ロードバイクに乗ったまま異世界に紛れ込んでいくという、少しファンタジー要素のあるお話です。『レンタル・チルドレン』は、子どもを亡くした夫婦が子どもをレンタルして育てていくのですが、それによって親の人格も破綻してしまうというちょっと怖い話なんですけど、そういうダークな部分がある作品が割と印象に残ります。本はジャケ買いすることも多いのですが、実際に読んでみたら「すごかったな」と思う作品と出会うと嬉しいですし、活字で読んでいても自分の中で映像が見える作品は読んでいても面白いと思います。