1. HOME
  2. コラム
  3. 気になる雑誌を読んでみた
  4. 雑誌「地域人」 あの手この手で地方を明るく元気に

雑誌「地域人」 あの手この手で地方を明るく元気に

地域人

 「地域人」は、通巻80号。全国の地域活性化への取り組みを紹介する雑誌だ。

 これまでエネルギーや自然災害、農業、起業、後継者問題などの社会的なテーマのほか、町並み、本屋、新しい祭り、聖地、スポーツ、ロングトレイルから野良着ファッションまで、多様な視点で地方に切り込んできた。UターンIターンへの関心の高まりに伴い、地方への移住や当地での働き方、また地方の文化そのものをとりあげる雑誌がここ数年増えているが、野良着で一冊作ってしまう雑誌はなかなかないのではないか。そんなところからも、あの手この手で地方を元気にしようという意気込みが感じられる。

 変な言い方になるが、以前からこの雑誌にはまろやかな印象を持っていた。内容が明るくデザインが読みやすいし、広告がないことや、特集がわかりやすく親近感があること、出てくる人たちが地に足がついている人たちばかりであることなど、とにかく全体にふんわりと温かいのである。

 最新号から若干リニューアルし、隔月で地域別とテーマ別の特集を交互に展開していく仕様になった。本誌はもともとそうした地域別の特集をメインに掲げていたようで、バックナンバーを見ると、豊島区の特集を2度もやっていて驚いた。豊島区に何があるのだろう。当該号を読んでいないのでわからないが、これからそのぐらいピンポイントで事例研究していくとしたら面白そうだ。

 で、リニューアル最初の特集は和歌山県。地元の食の魅力をとりあげたり、新しい事業に取り組む経営者や職人へのインタビュー、コアな書店めぐりやローカル線の紹介記事、地元のニュースを網羅したページなど、どれも読み応えがある。ただ隔月で地域別の特集に戻すことによって当地の課題をもっと深掘りしていくのかと思ったら、そうでもないようだ。

 地方のこれからを考えるなら、いい面ばかり取り上げていては本質が見えなくなるのではないかという印象もなくはないけれど、問題意識は持ちつつも、まずは明るい一面を、ということか。

 終盤の記事のいくつかで今後の人口減少やデジタル化などの問題が提起されていた。どれも真正面からぶつかるには高いハードルだと思うが、小さな分野でも成功事例が具体的なデータとともに載っていれば多くの人が勇気づけられる気がする。

 少し辛口に書いてしまったけれど、楽しく読めて前向きな気持ちになれる雑誌というイメージは変わらない。前号の「スロー・サイクリング」特集はとても面白かった。

 次号は「博物館から始める旅 地域の特色あるミュージアム」と予告にある。私が博物館好きなせいもあるが、こういう目の付けどころの良さにいつも惹(ひ)かれてしまうのであった。=朝日新聞2022年5月7日掲載