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BL担当書店員が青田買い!「期待のニューカマー2021」

イケおじたちが魅せるロマンスグレーBL(井上將利)

 僕が紹介したい「注目のニューカマー2021」はイラストレーターとしても活躍中で昨年3月にデビューコミックス「灰雪の街のサバーカ」(日本文芸社)が発売となった帽子さんです。

 表紙のインパクトがまず凄い、黒い! どこまでも落ちていきそうな暗闇を直感的に感じましたが、内容はそれ以上に深く底が見えない重厚さをもったストーリーになっています。

 本作は、裏社会に長年身を置いてきた、個人的にもグッとくるイケおじたちが登場する作品となっており、うたい文句のとおりのロマンスグレーBLです。

 50過ぎの敏腕スナイパーであるガル(エドガル)は30年連れ添った相棒ファルカに先立たれて以来、自分も死に場所を探すかのように生きていました。そんな危なっかしいガルのお目付け役として同僚のラーラとシーダのコンビが行動を共にしていましたが、ある日、シーダが事故で帰らぬ人に。ガルはファルカを失った時の自分を重ねながら失意のラーラに寄り添うのですが、そこにファルカそっくりの謎の男バルバと白いモフモフした犬が現れます。

 裏社会で生き抜くため抗争で多くの命を奪ってきた彼らにとって、人が死ぬことは日常の一幕に過ぎないはずでしたが、大切な人を失う重みは同じ天秤では量れるものではなく……。ガルやラーラが過去に背負った十字架が重い影として垣間見える裏社会モノならではの重たい空気感が見事に表現されています。変な言い方ですが、ちゃんとキャラクターの目が死んでいて、常人では想像もつかない修羅場を生きてきた目をしているように感じました。

「灰雪の街のサバーカ」より ©帽子/日本文芸社

 さらに、年齢を重ねた大人が漂わせるオーラのような、心を隠すのが上手な立ち振る舞いがイケおじたちの魅力を引き出していて味のあるキャラクター性に引き込まれていきます。また、彼らの「普通の人」である側面も丁寧に描かれていて、何気ない生活感や舞台となる異国の生活習慣が見事に作品に溶け込んでいるのも見どころです。

 そこに加わる謎の男バルバと犬(モフモフで可愛いですw)が物語を大きく進めていき、ガルの過去を紐解いていくのですが、そこは本作を読んでのお楽しみということで。

 異国情緒あふれる世界観と、いい年したサバーカ(ロシア語のスラングで「ろくでなし」の意味)たちによる独特の雰囲気を漂わせる注目のロマンスグレーBLを是非!

キュンキュン描写の嵐で“天国”へ!(原周平)

 素敵な作品を生み出せる人が世の中にはこんなにいるんだ、と思わずにはいられないほど、続々と作家さんがデビューされます。最近手に取ったBL漫画から特にグッときたこちらを今回はご紹介します!

 ほどさん「フロムヘブンヘブン」(一迅社)

 同級生の藤田に長く片思いをしている林。卒業式の日に、藤田本人から「お前って俺のこと好きなの?」と問いただされ、観念した林は気持ちを認めながらも、“見ているだけの天国”の終わりを覚悟するのでした――。が、1週間後、何故か一緒にホテルにいる2人。まさかの展開にも、思い出作りをしてくれただけでこれっきり、と思い込んでいた林でしたが、実は藤田も気になっていたことが分かり、めでたくお付き合いスタートとなります!

 まずこの1話目の展開が素晴らしいんです。初めて体を繋げたときの想い、本当は両想いなのにすれ違っているところ、正直になって互いの気持ちを確認しあう海辺……。限られたページ数の中にキュンキュン描写の嵐が巻き起こり、あっという間に心を鷲掴みにされました……!

「フロムヘブンヘブン」より ©ほど/一迅社2021

 その後は晴れて恋人同士になった2人の物語が続きます。就職した藤田と進学した林。取り巻く環境は変わっていきますが、ずーっと甘々で最高です‼︎ もちろんモヤモヤしたり悩んだりすることもありつつ、ちゃんと2人で向き合って前に進み、根っこにいつもお互いのことを大切に思っていることが感じられる関係で、ほのぼの安心して読むことができますよ♪

 林はちょっと天然ぽくて可愛らしく、表情も豊かで見ていて飽きません(守ってあげたくなるタイプっていうんでしょうか)。思いつめがちなところが少し心配ですが(笑)、素直で前向きで、これから何かあっても乗り越えていってくれそうです。一方の藤田は、はじめはぶっきらぼうに見えていましたが、すごくあったかい人だったんだなーって思いました。男前で紳士的、しかもカッコイイことを押しつけがましくなくサラッとできてしまう。まさしくイケメンです。時折ふわっと見せる笑顔がまた素敵! あと横顔が美しくて林ばりに見惚れてしまいそうでした(笑)。

 そんな対照的な2人の歩み一つひとつが、読んでいる方を照れさせたり、ほっこりさせてくれたりと、誠実な恋物語がさわやかに心を満たしてくれます。2人の間に水を差すようなキャラクターも登場しないので、カップルの日常を堪能できました。「どこまで行っても天国」な2人を見て、恋をしたくなったり、今いる大切な人をもっと思いやりたくなったりする、そんな読後感を与えてくれる作品です。単行本描き下ろしで補完してくれる、藤田目線の高校時代のお話も、微笑ましすぎて幸せの極みでした(笑)。ぜひ1冊まるっとお楽しみください!