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ミステリ、ファンタジー、アドベンチャーの面白さが詰まった「噓の木」 小澤英実が薦める、フレッシュな「冒険」小説3冊

小澤英実が薦める文庫この新刊!

  1. 『噓(うそ)の木』 フランシス・ハーディング著 児玉敦子訳 創元推理文庫 1320円
  2. 『美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック』 マッケンジー・リー著 桐谷知未訳 二見文庫 1430円
  3. 『彼女たちの場合は』(上・下) 江國香織著 集英社文庫 各704円

 若さの特権とは、どこにでも行け、なんにでもなれること――そんな無限の可能性に賭けたくなる、フレッシュな「冒険」小説三冊。

 (1)高名な博物学者の父に嫌疑がかかり、イギリス本土から家族で人里離れた島に身を隠した十四歳のフェイス。だが父が謎の死を遂げ、少女は敵だらけの島でひとり、真相を暴く決意をする。噓を養分にして育つ木をめぐり、科学と宗教の関係という西欧社会の根源的問いに斬り込みながら、ヴィクトリア朝時代の女性の抑圧を逆手にとり、従来の少女探偵小説を現代的に書き換える。ミステリ、ファンタジー、アドベンチャーの面白さがこの一冊に詰まっている。

 (2)舞台は十八世紀のイギリス。素行の悪さで勘当される寸前の放蕩(ほうとう)息子モンティは、良家の子息の慣例である欧州周遊旅行に出かけるが、出来心でした盗みのせいで陰謀に巻き込まれる。錬金術や秘宝探しの活劇以上に、同性の親友への片想(かたおも)いの行方から目が離せない。はるか遠くの時空から届く声が、ビーコンの光のように現代を照らす。

 (3)ニューヨーク郊外に住む十七歳と十四歳の従姉妹(いとこ)どうしが、ある日誰にも告げずに家を出て、長距離バスやヒッチハイクでアメリカを横断する旅に出る。彼女たちと一緒に旅しているようでも遠くから見守るようでもある絶妙な視点の距離感は、著者ならではの技。長い旅の終わりにさらりと置かれた数行の記述に目をみはる。実際の旅行記のようでいて、それとは一線を画す小説のマジックだ。=朝日新聞2022年6月11日掲載