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スリリングな展開にしびれる「囚われのスナイパー」など村上貴史が薦める新刊文庫3冊

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『囚(とら)われのスナイパー』(上・下) スティーヴン・ハンター著 公手成幸訳 扶桑社ミステリー 各1045円
  2. 『プリズム』 貫井徳郎著 実業之日本社文庫 792円
  3. 『エナメル その謎は彼女の暇つぶし』 彩藤アザミ著 新潮文庫nex 781円

 (1)は『極大射程』に始まる長寿シリーズの最新刊。票目当ての議員が、老いた狙撃手のスワガーを公聴会に引きずり出し、勝手な法解釈や詭弁(きべん)など、あらゆる手段で責め立てる。狙撃手にとって異質なその闘いに、麻薬を巡る悪党たちの争いが飛び火し……。スワガーが二種の全く異なる闘いに巻き込まれる本書。それぞれの闘いも展開もひたすらにスリリングだ。悪党たちの造形も見事。なかには筋の通った考えを持つ者もおり、欲に溺れた政治家たちとの対比も鮮やかだ。スワガーの先祖の物語も織り込まれていて大満足。

 (2)は一九九九年の作。小学校の女性教師が変死した事件について、四つの章を通じて、教え子や同僚など四つの視点から真相を探っていく。その過程で彼女をはじめとする登場人物の表面と内面の差異が明らかになっていく様が興味深いし、四者四様の推理も愉(たの)しめる。その四つの推理が重なった果てに読者に提示される結末が独特で、しかも相当に衝撃的だ。予備知識なしに愉しんで戴(いただ)きたい。

 (3)は寝台探偵と助手の推理を描く連作短篇(たんぺん)集。男子高校生のエナは、長期入院中のメルの病室に通い、“名探偵”である彼女の依頼に応え続ける。彼らの謎解きの歪(ゆが)みが本書の特徴。第一話では文芸部の部誌の汚れにひそんでいた邪(よこしま)な心を抉(えぐ)り出す。第二話に至っては、人を殺してみたいという少女が冒頭から登場する有り様だ。こんな謎解きを四つ重ねた本書は、いびつではあるが、それでもやはり青春小説だった。心に深く刺さる。=朝日新聞2022年6月18日掲載