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「災祥」など女性が活躍する歴史時代小説3点 谷津矢車が薦める新刊文庫

谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『災祥』 小島環著 潮文庫 880円
  2. 『仕立屋お竜』 岡本さとる著 文春文庫 759円
  3. 『お柳、一途 アラミスと呼ばれた女』 宇江佐真理著 朝日時代小説文庫 814円

 今回は女性の活躍する歴史時代小説をテーマに選書。
 (1)は、中国・明最後の皇帝にして悲運の政治家崇禎帝(すうていてい)(朱由検〈しゅゆうけん〉)を描いた歴史小説。根幹から揺らぎ腐敗する国家、相次ぐ異民族の襲来、そして猖獗(しょうけつ)を極める流行病。報われない戦いの連続に翻弄(ほんろう)される由検の哀れなる人生を、彼にしか見えぬ美女、懐允(かいいん)が彩る。ファンタジックな懐允の存在が、由検の孤独、懊悩(おうのう)、悲哀を浮き彫りにし、作品世界に奥行きを与えている。

 着物の仕立人は世を忍ぶ仮の姿、裏で悪を始末する女仕置(しおき)人、お竜の活躍を描いた(2)は、痛快さとスピード感が売りの時代小説。なんといっても見所(みどころ)はお竜。女を食い物にする男どもに天誅(てんちゅう)を下していく姿はまさにダークヒロイン。さらに、お竜が仕置人稼業に身を置くに至るバックボーンを丁寧に掘り下げ因縁を構築することで、殺しに手を染めるお竜と読者の心を繫(つな)ぐ工夫とし、さらに物語終盤の展開にも繫げている。名手による新シリーズ、今後も期待大だ。

 (3)は、日本最初の女性通詞とされ、男装してまで榎本武揚を追って蝦夷(えぞ)地まで随行したとされる女性を主人公にした歴史小説。彼女について残る逸話はほんの僅(わず)かに過ぎないのだが、丁寧な筆によって幕末近代を自分らしく生きた一人の女性の姿が立ち上がっている。彼女の脇を固める榎本やブリュネといった人物の素描にも、本作だからこその見所がある。ある無名な女性が目の当たりにした、幕末裏面史にご期待あれ。=朝日新聞2022年7月2日掲載