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「だから私はここにいる」書評 暗闇を照らす言葉 諦めず声を

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2022年07月09日
だから私はここにいる 世界を変えた女性たちのスピーチ 著者:アンナ・ラッセル 出版社:フィルムアート社 ジャンル:伝記

ISBN: 9784845920235
発売⽇: 2022/05/26
サイズ: 20cm/183p

「だから私はここにいる」 [著]アンナ・ラッセル [イラスト]カミラ・ピニェイロ

 「私は不思議でしかたがない。なぜ私たちは、これだけ考え、主張し、研究してきたというのに、いまだに『この世界で女性であるとはどういうことか』を自問し続けているのだろう」
 本書の冒頭で、著者のアンナ・ラッセルはこのように書いている。たしかに本書だけでも54本のすばらしいスピーチが収録されているが、彼女たちの異議申し立てが全て聞き入れられ、解決済みとなったわけではない。世界はいまだジェンダー平等を達成したとは言いがたく、人種、民族、宗教等(など)にまつわる理不尽な状況も、現在進行形の問題として横たわっている。
 では、女性のスピーチは無意味かというと、そんなことはない。むしろ女性たちの間で絶えることなく紡がれてきた言葉に力づけられる思いがする。男性中心社会に組み敷かれながらも、いつだって誰かが諦めずに声を上げてきたのだ。
 「抑圧的な言葉は、暴力を示しているだけではなく、それ自体が暴力です」
 黒人女性として初のノーベル文学賞を受賞したトニ・モリスンのスピーチは、抑圧的な言葉をかけてくるあらゆる存在(家族から国家まで)を想起させずにはおかない。
 「男性が男らしさに適応するために攻撃的になる必要がなければ、女性が従順さを強いられているように感じることもなくなるでしょう。男性が支配する必要がなければ、女性は支配されずに済むでしょう」
 映画版「ハリー・ポッター」シリーズで知られるエマ・ワトソンのスピーチは、フェミニズムが男性をも解放する思想であることを端的に伝えている。この他にも、さまざまな国のさまざまな女性たちのスピーチが、聴衆の心を震わせてきたのだと教えてくれる。
 エンパワメントの言葉は人生の暗闇を照らす光だ。徹底的に打ちのめされ、自分は無力だと感じるとき、お守りになるような言葉すらなかったら、と考えると本当に恐ろしい。
    ◇
Anna Russell 米「ニューヨーカー」誌編集者兼ライター▽Camila Pinheiro イラストレーター。