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『韓国の「街の本屋」の生存探究』書評 「独立書店」の試みに可能性見る

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月23日
韓国の「街の本屋」の生存探究 著者:ハン ミファ 出版社:クオン ジャンル:本・読書・出版・全集

ISBN: 9784910214344
発売⽇: 2022/05/31
サイズ: 19cm/281p

『韓国の「街の本屋」の生存探究』 [著]ハン・ミファ

 駅前に本屋さんが当たり前にある時代は過ぎた。チェーン店と争ったのも今は昔、電子書籍、オンライン書店との競争も決着しつつある。荒野と化しそうに見えた本屋業界に、ちらちら射(さ)す光が「独立書店」だ。
 韓国では2000年代末から新しい形態の個人経営の本屋が生まれ始めた。本書は、彼(か)の地の出版事情にはじまり、店主の人物像や独立までの経緯を含め、ひとつひとつの本屋の物語を紹介していく。日本でいう再販制度や取次制度などの解説もまじえるが、この種の本が往々にして制度や自由競争の批判に終始してしまうのに対し、読者自身に本屋の未来を想像させようとする配慮が細かい。
 書店旅行に誘うような会話調の本である。折に触れ日米の状況と比較され、読者の実体験に重ねられるので、いつしか韓国の事情とは思えなくなる(ただし、軍事政権下での言論弾圧の経験は見逃すべきではない)。さらに、解説の石橋毅史がタイミングよく合いの手を入れ、筆者に疑問すらなげかけるので、さながら二人の対話を聞いているような面白さもある。
 本書で紹介される新しい形態は多岐にわたる。カフェや雑貨販売の併設、読書会などの催し、キュレーションによる棚づくりはもはや定番。貸会議室との併用、入場料をとるといった戦略もある。地域の結節点として、共同体機能を担う例も紹介されており、驚くほど日韓で(そしておそらく台湾や米国でも)似ている。しかし筆者が指摘するように、こうした新しい形態の本屋が持続的に生息できるかは全く未知数だ。現に、もはや生存をあきらめる話も頻繁に登場する。
 本書には明確な結論はない。毀誉褒貶(きよほうへん)著しい制度的要因をいったん脇におき、ひとつひとつの本屋の活動に可能性を見出(みいだ)し、「本屋はいまなお息づく『本の生態系』の一部だ」とするまとめは、どの国にも有効だ。議論を再出発させるにはよい知恵かもしれない。
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Han Mihwa 韓国の出版評論家。1994年以来、数多くの出版関連誌を刊行。他のメディアでも発信してきた。