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6人の名手が描く物語に驚愕 「本格王2022」など村上貴史が薦める新刊文庫3点

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『本格王2022』 本格ミステリ作家クラブ選・編 講談社文庫 924円
  2. 『暗殺者グレイマン〔新版〕』 マーク・グリーニー著 伏見威蕃(いわん)訳 ハヤカワ文庫 1254円
  3. 『十三角関係』 山田風太郎著 河出文庫 1155円

 二〇二一年発表の本格ミステリ短篇(たんぺん)から六作を選出した(1)。ペット探偵への犬探し依頼は真相と共に思わぬかたちで決着する/毒を盛ったのは誰かという謎を役者が解く/退職後に家を買おうとした元刑事は過去の担当事件に新たな光を当てる/二人の男と一匹の犬は旅先でたった一つの解毒剤を誰に使うか悩む/男子学生は五人の合コン相手の素性を推理する/高校生二人は汚損したミステリ原稿の復旧に知恵を絞る。六人の名手による六通りの上質な論理と驚愕(きょうがく)を満喫。

 (2)は最近公開された映画の原作。二〇一二年の邦訳に地名(キーウ他)に関する注記と解説を追加した新版だ。囚(とら)われた依頼主と双子の孫たちを救うべく“仕事先”のシリアからフランスに急行する暗殺者グレイマンに次々と刺客が……。連続する闘いの熱と知恵と凄味(すごみ)に魅了され、さらに空中水中雪中など戦場の多様性に目を奪われ、五百頁(ページ)超を一気読みすること必至。この機にシリーズ第一巻の本書をお試しあれ。

 (3)は一九五六年の発表以来、何度も繰り返し出版されてきた長篇。都内の遊郭で酸鼻な事件が発生。店のマダムが殺され、解体された手足と首が外の風車に吊(つる)されたのだ。夫や息子に記者など容疑者は複数浮かぶが、犯人を特定する決め手を欠く……。動機も犯行方法も意外性抜群なのだが、特に犯人の隠し場所に驚嘆した。なんというアクロバットか。様々な供述や手記を織り交ぜる語り口の妙も人心の奇怪さを鮮やかに表現していて、読み継がれるべき一冊。=朝日新聞2022年7月23日掲載