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「帝国のフロンティアをもとめて」書評 移民の定住をとおした支配描く

評者: 藤野裕子 / 朝⽇新聞掲載:2022年08月20日
帝国のフロンティアをもとめて 日本人の環太平洋移動と入植者植民地主義 著者:東 栄一郎 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:社会学

ISBN: 9784815810924
発売⽇: 2022/06/10
サイズ: 22cm/345,76p

「帝国のフロンティアをもとめて」 [著]東栄一郎

 これは日本史なのか、アメリカ史なのか。本書の扱う戦前の日本人移民は、「○○史」という枠組みを超え、環太平洋を移動した。カリフォルニアに渡った人が、日本に戻り、またラテンアメリカやアジアに移り住むというように。
 知識人や事業家にとって、移民は「海外発展」の手段だった。明治期から福沢諭吉らにより提唱され、1920年代からは国策としても実行された。
 著者はそこに、軍事的な侵略ではなく、定住をとおしてその土地を支配する「入植者植民地主義(セトラー・コロニアリズム)」を見出(みいだ)す。白人による入植は先住民の排除や土地収奪をともなったが、日本の場合は、先住民との共存・同化を謳(うた)ったと著者はいう。
 重要なのは、この日本の特徴が、アメリカとの関係によって形づくられたことだ。アジアやラテンアメリカに入植した日本の知識人・事業家は、共通して、かつて北米で厳しい人種差別を経験していた。アメリカでは19世紀末から日本人の排斥が続き、1924年に新規移民の入国が禁止された。日本の入植者たちは、アメリカを反面教師とし、先住民を「温情的」に日本人に同化させようとしたのだ。
 そこには日本人特有の人種観があった。人種の優劣において、アジアやラテンアメリカの先住民は日本人より劣位にあるという認識だ。白人からの人種差別の経験が、他地域への入植を促す。日本人移民は、被害/加害の二分法では分けられない存在だった。
 本書が取り上げたのは、おもに知識人・事業家層の男性である。労働者層や女性の移民、植民地の軍・警察などの暴力装置まで視野に入れると、異なる像が浮かびあがると思われる。
 それでも、日本史/アメリカ史、被害/加害の枠組みでは捉えきれない人びとを描いた意義は大きい。読みながら、戦前の日本を考える際の歴史地図がダイナミックに広がり、歴史像が変わるのを感じるだろう。
    ◇
あずま・えいいちろう 1966年生まれ。ペンシルベニア大教授。著書に『日系アメリカ移民 二つの帝国のはざまで』。