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BL担当書店員のイチオシ! 「この表紙は裏切らない! ジャケ買い成功なBL作品」

キャラの見た目と中身のギャップが癖になる!(井上將利)

 出版物の表紙って個人的にはその作品の「顔」だと思っていて、電子書店でもサイト上に無数の表紙が並ぶことが多いのですが、その中で「ん?」と第一印象で読者の興味を惹きつけられるか、どんな顔をした作品か、というのは実際の売れ行きを左右する重要な要素だと感じます。さて今回は「この表紙は裏切らない!」をテーマに、ある意味裏切られる(?)作品をご紹介したく、雪路凹子さんの「Nightmare Catalog」(茜新社)を選ばせて頂きました!

雪路凹子「Nightmare Catalog」(茜新社)

 見て下さい、この禍々しくも美しい表紙を。重厚なダークファンタジーの雰囲気が漂っていますね。まぁ実際、ダークファンタジーではあるのですが……。それ以上に笑える作品なんです!

 物語としては永遠の時を生きる吸血鬼・アシュリーが自身の孤独を癒すため、従者の人形・ノエルと共に世界中を飛び回り、アシュリーに相応しい恋人を探す……というストーリーなのですが、まずアシュリーがどうしようもない変態紳士で発言の9割はしょうもない事しか言わないのと、従者のノエルが超が付くほどの毒舌&ドSで主人のアシュリーのことをボロクソに言う、とてもいいキャラなのです(ちなみにノエルは、アシュリーのことをゴミ屑以下としか思っていないとのこと・笑)

 そんな著しい変態アシュリーの恋人候補としては、ミイラや人魚、妖怪など様々な人外キャラたちが登場するのですが、時々アシュリーの変態っぷりに振り回されて可哀そうだな、とか思ってしまいます。

 とあるシーンでは、色々考えたアシュリーが「自分自身が恋人なら完璧だ」と思いつき、ドッペルゲンガーを恋人にしようとしますが、ゴミ屑以下が2人になったことでノエルのストレスが限界突破してぶん殴られてしまいました(笑)。

 そんなこんなで読者と登場人物総出でアシュリーにツッコミを入れながら読み進めていくのですが、不思議なことにギャグテイストな作品なのにページをめくる手が止まらない現象が起こります。恐らくは作者の雪路凹子さんの絵が上手過ぎるということが理由だと思われ、作画がめちゃくちゃ耽美で麗しく、キャラたちがキラキラしているのにセリフと行動が真逆に振り切れている、この圧倒的ギャップが癖になるんだと思います。

 これを読んだらきっと作者のファンに。この表紙を見かけたら迷わず手に取ってみてください!

切なさが表紙からも漂う、両片思いBL(原周平)

 表紙には、作品タイトル、作家名、作風、作品の世界観……いろんな情報がたった1枚の画に込められていますよね。無数の作品が並ぶ中、直観的に「これは面白そう!」という出会いもあるものです。今回おすすめする作品は……

 奥田枠さん「午前2時まで君のもの」(新書館)

奥田枠「午前2時まで君のもの」(新書館)

 上下巻で刊行されています。どちらの巻も、全体的に夜の暗めな風景にビビッドなオレンジが映えて、まずはそこに目が行きました。あえてキャラクターを大きく描かないデザインや、どこか漂う切なそうな雰囲気に惹かれて読んで大正解。とても面白いストーリーと繊細な人間関係に、胸がきゅーっとしました。

 読み始めてからしばらくすると、この作品の複雑なところが見えてきます。学生の頃からずっと恭一に抱いていた思いを隠しながら過ごしてきた道夫。21歳の時に交通事故にあい、新しい記憶は眠ると忘れてしまう後遺症を負ってしまいます。そんな中、恭一とは友達でいることを選び、灯という女性と結婚して29歳になっていたのでした。でもそのことは毎日忘れてしまうので、自分の残したメモを頼りに新しい日を送るのです。

 実は恭一も道夫に思いを寄せていて、いわゆる“両片思い”というテッパンテーマのひとつなのですが、記憶障害や結婚という背景がこの物語をより特別なものにしているように思います。初恋を忘れられずに恭一と繋がってしまったとしても、ずっと一緒にいられるわけではない。0時24分発の終電で灯の待つ家に帰宅する2時までの時限の恋……。タイトル、そういうことかー! 切なすぎません!!?

「午前2時まで君のもの」上巻より ©奥田枠/新書館 

 ずっと好きだった恭一と、一緒にいることを決めた灯、2人の間で道夫の心は揺れ動きます。周りの時は流れているのに、何も覚えていなくて、21歳から変わらないまま大人になれない自分へのもどかしさ……。自分が同じ境遇だったら、と想像すると絶望しそうなところを、しっかり悩んで考えて、一つひとつの瞬間を喜んだり泣いたり、精一杯生きる道夫。灯と恭一、どちらの気持ちを明日の自分に繋いでいくのかも自分次第。恭一も灯も道夫のことをとても大切に思っていて良い人なので、みんな幸せになってくれ~!という気持ちを抑えられません。

 未来を描けず、もがく道夫が、どういった選択するのかは、ぜひ読んで確かめてください。切なくて苦しいこともたくさんあったり、思わず泣きそうな場面もあったりしますが、それ故の感動もまたひとしお。奥田粋さんの描くキャラクターの表情の豊かさも相まって、すごく感情移入しちゃいました。なあなあで繰り返しがちな1日をもっと大切にしながら、ささやかな幸せを積み重ねていきたいな、と思わせてくれる作品です。

 読んでから改めて表紙を眺めると、2人がこんなことを考えているシーンなのかな~なんて妄想も広がります。期待を裏切らないどころか飛び越えてきますよ!