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角茂樹さん「ウクライナ侵攻とロシア正教会」インタビュー 宗教から人々の歩み知る

角茂樹さん

 目をつぶれば浮かんでくる。公邸の庭に合う花を親身に探してくれた花屋の女性。カトリック信者として毎日曜日に通った教会。「親切な人が多くてね」。ロシアの蛮行に苦しむウクライナ人を思い、心が痛む。
 戦いが続くウクライナとロシアの関係は、宗教を抜きには理解できない。2014年から4年余り、駐ウクライナ大使を務めた経験から、そう思う。
 キリスト教のなかで東方正教会は日本であまり知られていない。東方正教会には、ロシア正教会やギリシャ正教会などがあり、信者は2億8千万人ほど。本書では正教会の歴史とともに、キリスト教自体の概説も加えた。それには理由がある。

 ウクライナには、ウクライナ正教会、ロシア正教会、そしてギリシャ・カトリック教会の信者がいる。複雑なキリスト教の歴史を知ることで、大国に挟まれ、時に領土を奪われながらも、ウクライナらしさを追い求めてきた歩みも理解できる。「ロシアと違う独自の歴史がある」
 外務省に入り、ニューヨークやジュネーブでも働いた。だが振り返って口から出てくるのは、内戦のあったルワンダやボスニア、カンボジアでの話。家族を失った人、国を追われた人の声に耳を傾けてきた。

 その姿勢はウクライナでも変わらなかった。教会に集う人たちの輪に加わり、交流を深めた。紛争下の東部ドンバス地方へは列車を乗り継ぎ、防弾チョッキを着て15回以上訪れた。そうした先に要人や教会関係者との豊富な人脈がある。彼らとのエピソードも本書の見どころだ。
 ロシア正教会のトップはウクライ(文・田島知樹 写真・大野洋介)=朝日新聞2022年10月15日掲載