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【谷原章介店長のオススメ】高松美咲「スキップとローファー」 誰にもそっと支える人がいる

谷原章介さん=松嶋愛撮影

思春期の思い、繊細に描く洞察力

 誰かの存在が、誰かの背中をそっと支える。その人もまた、誰かによって背中を支えられている。そんなふうに、ひとの心の襞(ひだ)にすっと入り込んで、溜まった澱(おり)を取り払ってくれる物語に出合いました。高松美咲さんによる漫画「スキップとローファー」(講談社)。つくり手の、登場人物全員に対する愛情や、人間に対する洞察力の深さを強く感じるストーリーです。

 主人公は、石川県の過疎の町から上京し、偏差値の高い高校に入学した、みつみ(美津未)ちゃん。地元では「神童」と呼ばれつつも、どこかちょっとズレた天然な一面があって、それが都会のクラスメートの心をほぐしていきます。学校が舞台ですから、とにかくいろんな登場人物が出てくるのですが、一見、悪い性格を持ったように描かれる人でも、そのイヤな部分に実は理由があって、その人自身も自覚し、恥じている。「変わりたい!」「変わっていこう!」って、もがいている。そして誰もが前へと歩みを進めていく……。そんなところが、びっくりするほど丁寧に描かれているのです。

 みつみちゃんと、早い段階で友だちになるのが、ゆづき(結月)ちゃん。端正な顔立ちで、竹を割ったような性格から、さっそく教室でも強い存在感を放ちます。でも、そんなゆづきちゃんも、「可愛いから、あなたは得だよね」「特別扱いだよね」などと周囲に一目置かれることで、真綿で首をじわじわと締められていくような、ゆるやかな毒を常に注入されていくような違和感、悩みを抱えて生きてきました。

 そんな、ゆづきちゃんを受けとめる存在が、まこっ(誠)ちゃん。まこっちゃんは元来、内向的な性格で、見た目のこととか、ファッションなんか気にしない。彼女は彼女でまた、センシティブで、ゆづきちゃんのような「勝ち組」に対する、やっかみを抱いて生きてきました。でも、「自分とは違う存在」と切り離していた意識が、ゆづきちゃんの繊細な一面に気づくことによって少しずつほどけていき、受けいれられるようになっていく。容姿ではなく中身や行動、「その人が何を大切に思っているか」が大事であるということに気づき、変わっていく。そこもまた、何ともいとおしいのです。

 僕自身の高校時代を思い起こします。こういうことを書くと眉をしかめられるかもしれませんが、「どうせ、谷原はモテるから、いいよなー」みたいなことを言われるのがイヤで、女子とは距離をとって、男子とばかりツルんでいました。クラスの「ヒエラルキー」とは関係ない人ばかり。いわゆる学年の「イケているグループ」の人たちとはなるべく関わらないようにしていました。

 ヒエラルキーにがんじがらめになっていた東京育ちのクラスメートが、いつの間にか置いてきてしまった「何か」を、みつみちゃんの存在によって、再び思い出させてくれる。その「何か」を、みつみちゃんは大事に持っています。たとえば、他人との接しかた。モノの考えかた、捉えかた。ひたむきに打ち込むこと。みつみちゃんの姿が、周りの人たちの胸を打ち、静かな波のように響いていくのです。

 現代の子って、ちょっと冷めたところがある。情報がいろいろと入ってしまうからなのか、自分の身の丈を知り過ぎて、「私はこんなもんだ」「ここまではできるけど、これ以上は無理だ」って、やる前から自分で限界を決めてしまっている。諦めないで打ち込み続けることも一つの才能であるはずですし、そういう才能を誰もが本当は持っているはずです。親は親で、そういう才能を持てるような子に育ててあげたい。

 みつみちゃんは、自分が思い描いている自身のイメージと、現実とに、大きな隔たりがあります。そんなところも、都会の子たちからすると、新鮮な驚きとともに、自らの可能性に新たな発見を見出すきっかけをつくっているのかもしれません。

 みつみちゃんが、初めて恋の感情を抱く相手、そうすけ(聡介)くんは、「自分のために生きる」ということを幼い頃から考えずに生きてきて、ある事件によって深く傷ついています。爽やかで、人あたりが良いので人気者だけれど、どこか無気力で、厭世的。「おじいちゃんみたいになるのは早いぞ!」と、読んでいて心配になってしまうのですが、彼も、みつみちゃんに背中を押され、また変わっていきます。二人がこの先、どうなっていくのか楽しみです。

 印象に強く残る場面があります。それは、みつみちゃんが東京で居候している、親戚・ナオちゃんの思いを描くシーン。充実した高校生活を送るみつみちゃんを、温かく見守るナオちゃんですが、自身は性的マイノリティとして葛藤を抱えた青春時代を過ごしたことが心の傷になっていて、東京で仕事に生きています。だから、キラキラした学生生活を送る、みつみちゃんのことを、どこか100%応援できない一瞬がある。少しわかる気がします。たとえば、同じ歳でデビュー作品も同じ藤木直人が、「大きな仕事が決まった」って聞けば、すごく嬉しいのと同時に、やっぱりどこか悔しい。

 そんな、複雑な思いを抱えるナオちゃんのことを、また、そっと支える存在のひとがいる。誰もがお互い、補い合いながら生きている。完璧な人間なんて、誰ひとりいなくて、皆が皆、少しずつ支え合っている。僕のまわりのコミュニティーを大切にしたい。自分にとって大事な人、時間、あり方って何だろう。思わず、そんなことを考えさせられます。

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 こちらも、大きな声でご紹介したいほど好きな漫画です。磯谷友紀さんによる「ながたんと青と-いちかの料理帖-」(講談社)。昭和・戦後すぐの京都を舞台にした恋愛・料理の物語。老舗料亭を舞台に繰り広げられる世界観が、また趣があって、よりロマンティックな物語です。(構成・加賀直樹)