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ひらのゆきこさんの絵本「おばけのやだもん」 イヤイヤ期を少しでも楽しく過ごせますように

文:坂田未希子

娘のイヤイヤ期から生まれた「やだもん」

——―「やだやだ だだっこ いないかな〜 いないかな〜」やだやだおばけのやだもんが探しているのは「やだやだ」いってる子どもたち。「帰りたくない!」「買ってくれなくちゃいやだ!」だだっ子を見つけると、ぴたんとくっついて、べろべろーんとひとなめ。するとびっくり、おばけの仲間に!? 子どものイヤイヤ期を親子で笑い飛ばせる絵本としても人気の、ひらのゆきこさんの絵本『おばけのやだもん』(教育画劇)。作品誕生のきっかけは、子どものイヤイヤ期だったという。

 絵本のお話をいただいたのが、ちょうど娘が2歳くらいの頃。当時、「イヤイヤ期」という言葉は使ってなかったような気がするんですけど、今思えば、そうだったなと。すごくヤンチャで、ずっと走っているような子でした。保育園が家から1分のところにあるのに、毎日、帰りに1時間かかるんです(笑)。公園のすべり台のところに走っていって遊んで、次はあっち、今度はこっちって。帰りたくないって泣いているのを抱き抱えて帰って、ご飯の支度をして、もう、毎日ヘトヘトでした。

 そんな感じで、育児で頭がいっぱいだったので、絵本のお話は一度断ったんです。「日々の生活でいっぱいいっぱいで、私自身カラカラで、とてもじゃないけどお話を考えるなんてできそうもないです」って。そうしたら、編集さんが「絵本というのは、3年、5年かけてもいいんですよ。ゆっくりでいいから考えてみませんか」と言ってくださって、とてもうれしかったです。

――最初に考えたのは、おばけではなくブタのお話だった。

 食べることとおしゃれをするのが好きなブタのお話で、これは面白いのができそうだと思って、頑張っていたんですけど、なかなか最後まで描けなくて。それで一度やめて、新しいのを考えようと。子どもたちを喜ばせる絵本を作ろうと、すごく力んでいたこともあったので、たくさんの子どもではなく、娘が喜ぶことだけ考えてみようと切り替えたら、スラスラ描けるようになりました。

『おばけのやだもん』(教育画劇)より

 主人公は、娘が好きな「おばけ」にしました。怖がるくせに大好きで、すごく反応するんです。おばけというと、夜出てくるとか、大人には見えないというイメージがありますが、「オバケのQ太郎」みたいに、昼間も普通に人間界をうろうろしながら、だだっ子を探しているという設定にしました。木や自動販売機、なんにでも変身できるのは、どこで見ているかわからないようにしたくて。やだやだの豆をまくのは、娘が道や公園に落ちている飴とかを食べてしまいそうだったので、「やだもんの豆かもしれないから、落ちているのは食べちゃダメだよ」と言いたくて描きました(笑)。

イヤイヤ期を少しでも楽しく

――出版後、読者からの反響で「イヤイヤ期」におすすめの本として話題に。

 イヤイヤ期を狙っていたわけでもなく、私自身、娘のことは大変でしたけど、イヤイヤ期だと気づいていなかったところもあったので、「みんな同じ思いをしていたんだ!」と驚きました(笑)。読者の方から「やだもんがくるよと言うと、ちょっとやだやだ言わなくなりました」とか「やだやだは減らないけれど、ナーバスになるイヤイヤ期がちょっと楽しくなりました」という声が届いて、うれしかったですね。娘も、すごく食いついて読んでくれて。字が読めなくても、全部暗記して読んでいて、「残念でした、べろべろべー」って、やだもんの真似をするぐらい気に入ってくれました。

 私もそうでしたが、イヤイヤ期は子どもの成長の過程で大切な時期とわかっていても、悩む親御さんは多いと思います。私自身は、すごく手のかからない子どもだったんです。ずっと広告の裏に絵を描いたり、葉っぱを1枚ずつドブに流してじーっと見たり、アリの巣の近くにお砂糖を置いて、アリが運ぶのを1日見ていたり、おとなしい子だったので、母も楽だったと思います。だから、娘が私とは全然違うのでびっくりしちゃって。どうしていいかわからなくて、本当に大変でした。なので、「やだもん」がそんな時期を少しでも楽しく過ごせる要素になれたら、とてもうれしいです。

『おばけのやだもん』(教育画劇)より

 娘も今は6年生になって、すっかりお姉さんになりました。私がセルフレジでもたもたしているとササッとやってくれたり、本屋さんに私の本がなくてしょんぼりしていると「ママの絵本は人気で売り切れなんだよ」って言ってくれたり、優しい子に育ちました。娘が全く手のかからない子だったら、やだもんは生まれなかったかもしれないので、娘に感謝しています。

ファンシーグッズのデザインから絵本の仕事へ

――絵本作家になる前は、ステーショナリー会社でキャラクターのデザインをしていたひらのさん。絵本の仕事はなんて贅沢な仕事なんだろうと思ったという。

 会社では、ノートや鉛筆、ペン、シール、お弁当箱など、ファンシーグッズのキャラクターデザインをしていて、毎月、新しいキャラクターを描いて提出しなければいけなくて、常にネタを考えていました。たまたま、別の方が原案の「ぶるぶるどっぐ」というキャラクターを担当していたときに、絵本を出す機会に恵まれたんです(『ぶるぶるどっぐ』、岩崎書店)。それまで、「売れるもの」ばかりを考えていたので、長く愛されるものを目指す絵本の世界はすごく魅力的でした。グッズのキャラクターもいろんなポーズをしますが、絵本はそれが動き出すというか、物語が見えてくるというのが、すごく素敵な仕事だなと。そういえば自分は絵本が大好きだったなというのも思い出して、いつか自分の絵本が出せたらいいなと思っていました。

――その後、フリーランスとなり、イヤイヤ期の育児経験を経て「やだもん」が誕生。2023年1月にはシリーズ6冊目となる新作も予定されている。

 こんなに続くとは思っていなかったのでうれしいですね。描くのも楽しいです。新作は、やだもんとソフトクリームのお話です。ソフトクリームを食べたいやだもんに、なにが起こるか。やだもんは、自分の中でキャラクターが確立しているので、こういうことは言わないとか、こんなことしちゃうとか、そこの部分で迷いはないですね。それから、やだやだ言うのが悪いことで、だだっ子を退治するような話にはしたくないので、やだもんはだだっ子が大好きで、お友だちになりたくて、仲間を探しているという軸はブレないようにしています。子どもたちを怖がらせたいとか、お化けの怖い世界に連れて行こうとか、そういうのではなく、やだもんなりの愛情で子どもたちに近づいている、というところを大事にしています。

『おばけのやだもん』(教育画劇)より

 絵本はきれいな心の子どもたちが読むものなので、影響力があります。大人は、自分が見たいもの、見たくないものを選べるかもしれないけれど、子どもはそれができないこともある。それだけ責任が大きいというか、いい加減なものは作れない。これからも、一つひとつ真剣に向き合い、丁寧に作っていきたいと思っています。

 イヤイヤ期のお子さんを持つ親御さんは、本当に大変だと思います。「お疲れ様です」って伝えたいですね。ヘトヘトでしょうけど、なにか楽しむことが見つけられたらと思います。絵本を読む時間がその一つになれたらうれしいです。絵本を読む時間って、あったかくて幸せな時間だと思うんです。大袈裟ですが、世界中の子どもたちに、絵本を読む時間があるといいなと思っています。