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自分の父は地球外生命体? 円熟の技量と筆致を楽しめる「父親たちにまつわる疑問」 村上貴史が薦める新刊文庫3点

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『父親たちにまつわる疑問』 マイクル・Z・リューイン著 武藤陽生訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1298円
  2. 『南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山』 樋口明雄著 徳間文庫 825円
  3. 『スイッチ 悪意の実験』 潮谷験著 講談社文庫 968円

 (1)は〈私立探偵アルバート・サムスン〉シリーズの第9弾。自分の父は地球外生命体だと主張する依頼人が盗難事件の調査をサムスンに依頼する第1話で始まる。収録4篇(へん)のすべてにこの依頼人が登場し、盗まれたり刺されたりと、様々なかたちでサムスンを事件に巻き込む。各篇で会話の妙や意外な決着を愉(たの)しんだうえで、最終話では、依頼人の父親やサムスンの父親、さらに父親としてのサムスンを含むかたちで、全体としての終止符を味わえる。円熟の技量と筆致を満喫。

 南アルプス山岳救助隊という架空の警察組織が山岳救助犬とともに北岳周辺の事件(国を揺るがす大事件も)を解決するシリーズの第11弾である(2)は、2篇を収録。女性アイドルと老いた小説家がそれぞれの理由で北岳に挑む1篇は、過去に救助隊の教えを体得していたアイドルが自力で危機に対処する様が印象深い。もう1篇では、遭難死した大学生の両親による救助隊への逆恨みを軸に、ある犯行の進むなかで、山と人の多様な関係が絡み合うスリルを味わえる。救助隊のプロらしさと賢い犬たち、優しくもなり厳しくもなる山の物語に改めて惚(ほ)れた。

 高額アルバイトに参加した6人に「ある一家を破滅させるボタン」を備えたアプリが提供される、という発端の(3)。先の読めないサスペンスのなかにボタンを巡るロジカルな推理が織り込まれ、さらに主要人物の心理にも納得できて満足。本書で昨年デビューし、設定も展開も謎解きも刺激的な作品を連発する著者に御注目を。=朝日新聞2022年11月5日掲載