新井見枝香が薦める文庫この新刊!
- 『ライオンのおやつ』 小川糸著 ポプラ文庫 792円
- 『死にがいを求めて生きているの』 朝井リョウ著 中公文庫 968円
- 『自転しながら公転する』 山本文緒著 新潮文庫 1045円
(1)「ライオンの家」で最期を迎えるため、雫(しずく)はもう戻ることのないアパートを解約し、人間関係にもけりをつけ、瀬戸内の島へとやって来た。若くして余命宣告されたことを、怒ったり泣いたり、どうしてと問うことにも疲れた雫は、穏やかな海を眺めるホスピスで自由に過ごしたかったのだ。もう長くはない。でも、まだ、生きている。死にゆく時もまだ、人生なのだということを知る。
(2)なぜ智也は雄介と仲が良いのだろう。小学校時代から、彼らと関わる人間は誰もが不思議に思う。大学では若き革命家のひとりとして、テレビ番組でも熱く発言し、常に何かと立ち向かうことを生きがいにする雄介は、やがて生きがいを失うことを恐れるように立ち向かう相手を求め、空回りしていく。それでも側(そば)を離れなかった、物静かな智也との対話に、不安で不安で仕方がなかったあの頃が終わることはこの先もないのだ、と突きつけられる。
(3)アパレル店勤務の都は、同じアウトレットモール内の回転寿司屋(ずしや)で働く貫一と付き合い始める。重い更年期障害の母を父とふたりで支えるため、地元の茨城に戻ってきたはずだったが、両親への罪悪感も忘れるほど貫一の風呂なしアパートに入り浸り、そのくせ将来の結婚を考えると彼への評価が揺らぐ。自分自身が目まぐるしく変化する間にも、周囲の誰しもは変化し続けている。そんな当たり前のことを、渦中の人は忘れがちだ。惑星のような構図を思い出すと、ほんの少し呼吸が楽になるのだ。=朝日新聞2022年11月12日掲載