『陰謀論』
社会に蔓延(まんえん)する陰謀論や虚偽情報が民主主義を脅かしている。真理が見えない時代を科学や哲学はどう照らすのか。秦正樹『陰謀論』(中公新書・946円)は、人間が陰謀論を受容するメカニズムを科学的に解明する。人間は自分の信念や認識の正しさを肯定してくれる説に惹(ひ)かれ、疎外感から陰謀論がもたらす肯定感に癒やしを求めてしまう。陰謀論が人間の性質に深く根ざしたものである以上、その根絶は不可能だ。著者は、自分が信じる「正しさ」に固執しすぎない「ほどほど」の姿勢が、陰謀論に対する防波堤になるとする。
★秦正樹著 中公新書・946円
『スピノザ 読む人の肖像』
國分功一郎『スピノザ 読む人の肖像』(岩波新書・1408円)は、デカルト哲学を徹底的に読み、それを継承しながらも批判的に検討し続けた「読む人」スピノザの人生と哲学を壮大に描き出す。スピノザの真理観は、私たちに真理についての根本的な態度変更を迫る。他者に伝達可能で、他者と共有できる真理の基準は存在しない。真理は、自分で獲得する以外ないというのだ。スピノザの遺作『国家論』は、君主国家と貴族国家を論じた後、民主国家の章で中断している。著者はこれをスピノザが残した宿題とみて、スピノザが遺(のこ)した本を「読む人」たちで新しい哲学をつくり、新しい民主主義論を作ろうと誘う。
★國分功一郎著 岩波新書・1408円=朝日新聞2022年11月19日