『ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学』
上野正道『ジョン・デューイ 民主主義と教育の哲学』(岩波新書・990円)は、アメリカを代表する哲学者・教育学者のデューイに一貫した像を与える。デューイはアクティブラーニングや問題解決学習のルーツの一人とされる。しかし彼が目指したのは、多文化や多民族の国にふさわしく、多種多様な「コモン・マン」(ごく普通の人)がよりよく生き、学び続けていける民主主義社会であり、社会の一部としての学校である。教育とは将来の準備ではなくすでに社会参加であり、民主主義は制度よりも生き方に宿る。社会の敵対と分断が深まる中、学ぶべきヒントがここにある。
★上野正道著 岩波新書・990円
『ゲノムの子 世界と日本の生殖最前線』
産婦人科医石原理の長年の取材記録が『ゲノムの子 世界と日本の生殖最前線』(集英社新書・1034円)だ。特に興味深いのは、技術進歩と先進国の人口縮小の中で、従来の血縁家族にとらわれない家族の多様性が国際的に肯定形で語られはじめていることだ。たとえば結婚やセックス、異性を必要としない家族の形。もちろん出生前診断や命の選別を含め、難しい問題がある。著者が重視するのは、誰もが自分事として生殖技術を学び、それが「社会的、文化的に受容可能」かを「検討」し、未来への「約束」と為(な)すことだ。ここでもごく一般の人々が学び続ける民主主義が鍵だろう。
★石原理著 集英社新書・1034円=朝日新聞2022年12月3日