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怪異と恐怖を巧みに描く「火喰鳥を、喰う」など村上貴史が薦める文庫この新刊

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『火喰鳥(ひくいどり)を、喰う』 原浩著 角川ホラー文庫 792円
  2. 『楽園とは探偵の不在なり』 斜線堂有紀著 ハヤカワ文庫JA 880円
  3. 『ハートフル・ラブ』 乾くるみ著 文春文庫 902円

 ミステリの賞とホラーの賞が統合されて誕生した横溝正史ミステリ&ホラー大賞を2020年に受賞した(1)は、主人公の久喜雄司の現実が、別の現実によって塗り替えられていく怪異と恐怖を描く。太平洋戦争末期に南方で死んだ雄司の祖父の兄の日記が、70年以上経過して久喜家に戻ってきた。それを契機に、雄司の日常が揺らぎ始める。日記に火喰鳥に関する文章が現れ、祖父は失踪。雄司は妻の知人の“専門家”を頼るが……。ひたひたと迫り来る静かな恐怖と、アクションと流血に宿る恐怖を、日記を軸に巧みに一つの物語に編み上げていて、頭脳と魂を震わせる。

 (1)と同年に高評価を得た(2)。2人殺した者を漏れなく地獄に送る天使たちが5年前に現れた世界で、1人の探偵が大富豪の招きで天使が集まる島に渡り、“連続殺人事件”に巻き込まれる。天使の絶対的なルールの下では起こりえない事件に……。孤島と館というおなじみの舞台で繰り広げられる推理は、この天使の世界ならではの論理を華麗に操っていて美しい。また、探偵の在り方に苦悩する主人公の描写も、この著者らしい魅力だ。

 『イニシエーション・ラブ』で知られる著者の7篇(へん)を集めた(3)。夫の余命が題材の短篇も4頁(ページ)の掌篇(しょうへん)も読み手を強烈に驚かすし、書き下ろし中篇では、唯一の女子を中心に集まった5人の大学生たちのなかで進む犯罪計画が迎える意外な決着で愉(たの)しませる。同窓会での一幕がぞわりとさせる短篇もあり、多様かつ上質な一冊だ。=朝日新聞2022年12月10日掲載