「インドネシア独立への悲願」書評 運動の全体図、体験者が証言
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2022年12月17日
インドネシア独立への悲願 アミナ・M・ウスマン108歳の証言
著者:アミナ・マジッド・ウスマン長田周子
出版社:花伝社
ジャンル:伝記
ISBN: 9784763420312
発売⽇: 2022/10/24
サイズ: 20cm/305,7p
「インドネシア独立への悲願」 [著]M・ウスマン長田周子、サルミヤ・M・ウスマン
インドネシアの独立に協力、ないし貢献した日本人は数多(あまた)いるだろうが、その一角に佇立(ちょりつ)する人物の評伝である。独立運動の志士アブドル・マジッド・ウスマンに嫁いだ日本人女性、長田周子(おさだ・ひろこ)。彼女の目から見た日本とインドネシアの近代史だ。これまでの歴史は、いくつもの虚構、自賛、隠蔽(いんぺい)、歪曲(わいきょく)が施され、史実が十分に精査されていない、との告発にもなっている。
インドネシアの独立運動の全体図、特に志士を利用して欺く手口などが詳しく書かれている。
ジャワの郷土防衛軍「PETA」と、スマトラの「義勇軍」とは成立背景が全く異なること、さらには日本のスマトラ占有による遷都(天皇をこの地に移す)という説など、史実の再点検が必要な記述もなされている。そういう史実への関心と、共著者(長田の長女サルミヤ)の筆による両親への愛情と畏敬(いけい)の念とが相俟(あいま)って、この書は独自の世界を持つ評伝、あるいは歴史書と言えるように思う。