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池澤春菜さん注目のSF3冊 未来も過去も、可能性にときめく

  • フォワード 未来を視る6つのSF
  • AI 2041 人工知能が変える20年後の未来
  • ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー

 今回はまるで華やかな前菜の盛り合わせのような、ワクワクするアンソロジーを三冊。

 まずは『フォワード』。ヒューゴー賞を三年連続受賞、今最も注目されるN・K・ジェミシンに、『モスクワの伯爵』が素晴らしかったエイモア・トールズ、そして『プロジェクト・ヘイル・メアリー』で話題をさらったアンディ・ウィアーなど、今をときめくSF作家によるなんとも贅沢(ぜいたく)な競演。

 ゲーム内のAIが異常な行動を取り始める、果たしてそれは自意識を持ったのか。仕掛けの妙にやられる「夏の霜」。終わりゆく世界を描く、静かで美しい「方舟(アーク)」。ジェミシンらしい鋭さで、カルト集団が異星で作りあげた歪(いびつ)なコミュニティーを描く「エマージェンシー・スキン」。アンディ・ウィアーはプログラマーという前職をいかんなく活用して、量子コンピュータによるカジノ攻略に挑む。科学技術がわたしたちをどこに連れて行くのか、可能性にときめく一冊。

 続く『AI 2041』、これまた凄(すご)い。起業家でコンピュータサイエンスの専門家である李開復が技術の解説を、そしてSF作家にしてこちらもGoogleや百度の重役であった陳楸帆がそれを元にした小説を書く。最高の組み合わせから生まれた全十編、560ページ。AI保険が病気やケガのリスクのみならず、結婚相手や人生の選択そのものにも踏み込んでくる「恋占い」。完全自動運転が実現した社会で人が果たす役割を描く「ゴーストドライバー」。AIに取って代わられ、仕事を失いゆく人々に救いはあるのか「大転職時代」。医療、教育、仮想通貨、そして幸福。2041年の社会がどうなっているのか、理解と想像を促す一冊。

 最後の一冊は日本人作家によるアンソロジー『ifの世界線』。テーマは改変歴史SF。SFは未来だけでなく、過去も変えるのだ。

 死ぬまで踊り続ける奇病が蔓延(まんえん)するイタリアで、錬金術師パラケルススを名乗る男が提案した治療法とは「うたう蜘蛛(くも)」。1965年にもしSNSがあったら。開高健が経験した史上初の炎上「パニック ――一九六五年のSNS」。和歌に詠訳(英訳)を添えるのが習いとなった世界。式子内親王と女官の帥(そち)、二人の友情と共犯関係「一一六二年のlovin’ life」。巨大な壁に囲まれた江戸を襲うテロを防げ、痛快な時代劇「大江戸石廓突破仕留(おおえどいしのくるわをつきやぶりしとめる)」。仮想現実の中に蘇(よみがえ)る歴史上の人物たち。ジャンヌ・ダルクは無限の火刑を経て、何に到達したのか。圧巻の「二〇〇〇一周目のジャンヌ」。

 さて、わたしの担当はこれで最後。SFは可能性の文学、そう思うわたしなりの選書を毎回お届けしてきました。あなたの世界が変わるような本とお引き合わせができていたら、この上ない喜び。=朝日新聞2023年1月25日掲載

◆池澤春菜さんによるエンタメ季評(SF)は今回で終わります。