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「エツコさん」ほか子どもにオススメの3冊 記憶は自分だけのものじゃない

「エツコさん」

 エツコさんは認知症のおばあさん。昔は学校の先生をしていて、エツコ先生と呼ばれていたらしい。近所に暮らす5人の小学生がエツコさんと体験する、あたたかくちょっと不思議な出来事を描いた物語。

 時々自分が見つけられなくなる、エツコさん。でも、記憶は自分だけのものじゃない。共有してくれる人がいるかぎり、自分がいなくなることはない。

 生きた時間の分だけ、多くの人と関わっている。その人達(たち)がいる限り、誰の人生もこの世の中から消えてなくなってしまうことはない。「忘れても、ちゃんとあったこと」なのだ。

 たくさんの人のことを覚えていてあげられて、たくさんの人に思い出してもらえる人生を歩めたら、とても幸せだ。(昼田弥子作、光用千春絵、アリス館、1540円、小学校高学年から)【丸善丸の内本店 児童書担当 兼森理恵さん】

「あなたがおなかのなかにいたとき」

 生まれるまでの10か月って、どんな世界? 胎児の成長を果物の重さなどを通して想像する科学絵本です。お母さんの体の中にあった「いのちのもと」=卵子は、もうひとつの「もと」と出会い、0.1ミリの受精卵になりました。お母さんの体の変化とともに胎児も変化し、生まれる準備をしていきます。サクランボの重さから、イチゴ、レモン……ついにはスイカの重さとなって、「ンギャアー!」。今の自分に至る、生命の進化の歴史を見るような感覚。誕生の神秘を豊かなイメージで実感させます。せきやゆうこ文、嶽まいこ絵、アリス館、1760円、5歳から【絵本評論家・作家 広松由希子さん】

「ガリバーのむすこ」

 戦場となったアフガニスタンを出て難民になった少年オマールは、嵐の海でボートから投げ出され、意識を失う。やがてオマールは、自分は砂浜に寝ていて、まわりを小人たちが取り囲んでいることに気づく。そこは、かつてガリバーが訪れたリリパット国だった。オマールは「ガリバーのむすこ」と呼ばれ、小人たちと友だちになってお互いの言葉や文化を学びあい、愚かな戦争をやめさせる。巧みな語り口に引っ張られて一気に読めるし、考えるきっかけも提供してくれる。(マイケル・モーパーゴ作、杉田七重訳、小学館、1650円、小学校高学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】=朝日新聞2023年1月28日掲載