「パレードのシステム」書評 台湾の民族文化から宿命を知る
ISBN: 9784065303597
発売⽇: 2023/01/26
サイズ: 20cm/174p
「パレードのシステム」 [著]高山羽根子
主人公は若くして評価を得ている現代アーティスト。亡くなった祖父の家を訪ねた際、「おじいちゃんってガイジンだったんだって」という従姉妹(いとこ)の言葉で、祖父が台湾で生まれ、第2次世界大戦後日本本土に引き揚げた“湾生(わんせい)”だと知る。
そして知人から、台湾で行われる父親の葬式に一緒に来ないかと誘われ、自分でも目的がはっきりしないまま台湾を訪れた主人公は街を散策し、文化や慣習を学んでいく。原住民を含め、多くの民族が住んできた台湾では、別の一族の死者は約束事の通じない存在と捉えられ、鬼と呼ばれていたのだという。そして日本統治時代には、日本にとって都合の悪い好戦的な民族を撲滅するため、利害が一致する別の民族を使って首を狩らせ、対価として大金を渡していた。
前時代的で残酷な話に聞こえるが、これは現代を生きる人々と無縁な話ではない。現代でも先進国の人々が眉を顰(ひそ)めるような慣習を持つ民族はいるし、本書の主人公もまた、芸術を志す者が無自覚に振りかざす冷酷さを持て余している。
主人公は常にアートを通して世界を見ている。作家は小説を、哲学者は哲学を通して見るように、全ての人は自分の信じられる物差し、価値観を通して世界を見つめている。そしてその信じるものの違いは人々を苦しめ、分断し、時に人を死に追いやる。民族や宗教の違いであれ、志すものの違いであれ、違う物差しを持って生きる人々の共存は難しく、それでも世界は誰かが作った原理に則(のっと)って動き続け、全ての人は誰かの鬼として滅びゆくのだという宿命を、本書は丁寧に浮き彫りにしている。
人と人とは分かり合える。本書はそんな偽善的な風潮に、音も水紋も立てず静かに落とされた一石のような本で、そこにはなぜ自分が評価されているのかも分からない、何も持たない主人公、何も持たない全人類の儚(はかな)い祈りが込められているかのようだった。
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たかやま・はねこ 1975年生まれ。2020年、「首里の馬」で芥川賞。著書に『オブジェクタム/如何様(イカサマ)』など。