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BL担当書店員が選ぶ「映像化してほしいBL作品」

映像で見てみたい、等身大な会話のやり取り(井上將利)

 2月のテーマは「映像化してほしいBL作品」ということで、高橋秀武さんの「サイケデリア」(ホーム社/集英社)を選ばせて頂きました。本連載では前にも同じく高橋さんの作品「雪と松」を紹介しましたが、本作も独特の作風が癖になって楽しめる作品となっております。

 物語は1ページ目から衝撃の幕開けとなります。新米刑事の溝尻(ミゾ)は先輩の日野と共に逃走犯を追って張り込みに向かうのですが、途中ミゾがコンビニに立ち寄った間に日野が犯人と遭遇し、挙句、銃で撃たれてしまうのです。日野の腹から生々しく流れる血を目の前にミゾは立ち尽くします。日野は意識不明の重体となり、憔悴しきったミゾは捜査から外され自宅謹慎を命じられます。責任を感じ思い詰めるミゾ。彼は出会った時から日野先輩のことが好きなのでした(本人曰く“性的な意味で”)。そして「大好きな先輩が死んでしまったらどうしよう」「自分のせいだ……」と重い足取りで自宅に帰るころには「死んで詫びよう」と自らの命を絶つことを決意するのでした。しかし一人で暮らすアパートに帰宅すると「おかえり、ミゾ」という声が。そして目の前には日野先輩が立っていて……⁉️

 仰天するミゾ(と読者)に対して「幽体離脱しちまったらしい……ははは」と涼しい顔の日野先輩。どうやら生霊となった彼はミゾのことが心配で様子を見に来たといいます。僕はこの場面で「日野さん生霊になっても血塗れ状態なんだ!(笑)」と思わずツッコミを入れてしまいました。

「サイケデリア」より ©️高橋秀武/ホーム社

 そして物語はここから小さなアパートの一室でのミゾと日野のやり取りが描かれていきます。この会話のシーンが何とも言えない心地よさで、時が経つのを忘れるような、それまでの雰囲気とは打って変わって静かな時間が流れ始めます。また、日野先輩がミゾにかける言葉の一つひとつが優しさに溢れていて彼の魅力も存分に描かれています。作者独特のコミカルな描写も散りばめられ、尊い言葉のやり取りが永遠に続いてほしいと思ってしまうのですが、日野先輩は生死の境を彷徨っていて、いまは生霊でもこの先は分からないという状況が徐々に切ない空気を作っていきます……。最後かもしれない状況で想いを伝える日野先輩には涙腺が刺激されました。

 本作では作者の魅力でもある等身大の人間模様が色濃く表現されていて、この作品を映像化してほしいと思ったのもそういった部分があります。2人の会話シーンは自分の目の前では既に映像のように滑らかに再生され、確かに2人の人間が存在するリアルさを感じました。あと単に「生霊の日野先輩を見たい!」というのもあるのですが(笑)。

 作品の中では作者ならではの体と体が触れ合う描写も是非堪能して頂きたいと思いますし、文字通りサイケデリック&リアルな人間模様を楽しんでください!

世界の素敵な風景と出会いに満ちた“旅するBL”(原周平)

 今回のテーマは「映像化してほしいBL作品」ということで、この世界観がアニメや実写になったら面白そうだろうな~!と妄想が広がる作品がたくさんあって、いつも通りアレコレ迷いながら選んだのはこちらです!

 ソライモネさん「僕らの地球の歩き方」(マッグガーデン)

 是非実写で観てみたい!と思う作品の1つです。

 真面目で少し心配性の朝日(あさひ)と、ふんわりマイペースな深月(みつき)のカップル2人が世界一周の旅をするお話。旅行に行くのって、バカンスだったり、観光名所を巡ったり、見聞を広めるためだったり、人それぞれの目的がありますよね。2人が壮大な旅に出掛ける理由、それは「一緒に最後まで世界一周できたら結婚する」という約束を果たすためなのです。

 朝日と深月はどうやってカップルになったのか、なぜ朝日は仕事を辞めてしまったのか、そして、どういった経緯で世界一周の旅の約束がされたか、など2人の過去については明かされていないことも多く、旅の途中に少しずつ明らかになっていくようで、引き込むのが上手い~!(笑)

 タイから始まりインド、ジョージア、フィンランド、ドイツ……。日本を出発した2人は、時には外国ならではのプチトラブルに巻き込まれながら、美味しいご飯を食べ、観光スポットを回り、次の国へと進んでいきます。

 この作品の好きなところとして、旅する国々の空気感が伝わってくるような風景の描き込みが素晴らしいんです! 見開きで描かれる景色には見入ってしまうし、へぇ~っとなるような知らなかった文化も丁寧に描写されていて、なんだか朝日と深月と一緒に体験しているような感覚にもなります。その場に合わせた服装にちゃんと着替える2人もおしゃれ♪ TPOに合わせて旅を楽しんでいる様が微笑ましい!

 そして、ただの旅行漫画というわけではもちろんなくて、ちゃんとボーイズラブしてます。基本的にとてもラブラブなカップルで、マイペースな深月にちょっと振り回されて言い合うこともありながら、天真爛漫な笑顔にきゅんとしちゃってる朝日、2人のやり取りが可愛らしすぎます……! そんな中でも、深月のプロポーズ旅行という大きな目的があるように、2人の間の思いやりや、それぞれ色々な悩みや葛藤を抱えながらも、お互い本当に愛し合ってるんだなーと伝わる姿には胸を打たれます……。普段はおちゃらけ気味の深月の、とある国でのこのセリフはカッコよすぎました!

「僕らの地球の歩き方」2巻より ©Mone Sorai/MAG Garden

 そんな2人の旅は現在4巻で南アメリカまで到達。本作の醍醐味の1つが旅先での一期一会の出会いの数々です。ツアーガイドやたまたま声を掛けてくれた人、深月が体調を崩した時に助けてくれた人、深月の元カノ、朝日の弟カップル……などなど。書ききれないほど世界をまわる旅路で偶然出会う様々な人々とのエピソード一つひとつが、2人にとって人として、そして恋人としての成長の機会になっているのが本当に素敵。出会った人のセリフには読んでいる側もハッと気付かされることも多いです。この先にどんな出会いがあって、旅の終わりに何が待っているのか楽しみ!

 動画サイトや地図アプリでも気軽に簡単に世界のことを知れる時代ではありますが、単純にきれいな風景や名所を眺めるのではなく、2人の旅の目的というバックグラウンドがあるからこそ得られる感動があると思うのです。実写で世界中の素敵な景色とともに、2人の愛と奇跡の出会いに満ちた旅が再現されたらいいなー!と妄想しつつ、旅の最後まで見届けたいと思います!