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BLマスターたちが指南 「令和元年!いま注目の『和』なBL」

渡世人と村医者が織りなす浮世絵のような世界(井上將利)

 新しい時代が始まり、古くから続く日本の歴史に注目が集まる今日この頃。「いま注目の『和』なBL」というテーマを頂いたので、「待ってました!」と言わんばかりに僕が大注目している作品をご紹介します。

 初めて表紙を見た時、一瞬で記憶に焼き付いたのが高橋秀武さんの初BL作品「雪と松」(ホーム社/集英社)でした。純和風の浮世絵のようなイラストに描かれた二人からは力強さや優しさを感じつつもどこか儚い印象があって、表紙を飾る彼らの事が無性に気になる作品だったんです(いわゆる一目惚れですね)。

 本作の主人公は雪の中、血を流して倒れていた元ヤクザの渡世人と、それを助けた義理堅い村医者の松庵。互いの心の隙間を埋め合うように体を重ね、松庵が「雪」と名付けた渡世人が居候するところから二人の共同生活が始まります。最初は松庵が雪にぞっこんという構図なのですが、お互いの過去を紐解きながら暮らしていくうちに互いがかけがえのない存在になっていく……という形で物語が進んでいきます。

 そんな二人を1コマずつアート作品のように描くのが本作の見どころの一つで、場面によって様々な表情を見せるキャラクターの目力に思わず吸い寄せられそうになります。

『雪と松 1巻』©高橋秀武/ホーム社

 その一方で、重厚感のある作風でありながら登場人物たちが本当にキラキラしているのが本作の面白いところ。彼らのまるで子供のように無防備で無垢な感情表現が、純粋さとなって心に刺さるはず。

 雪と松庵、複雑な過去を抱える者同士が無邪気な笑顔になる度に、嬉しさや愛おしさを感じずにはいられません……!

 そして同時に何かとても大切なものを思い出させてくれるような、そんな不思議な気持ちにさせてくれる本作。その魅力を是非、実際に体験してみてはいかがでしょうか。

絡み合う肉体の美しさにため息、不遇な愛が救われる瞬間にジーン(キヅイタラ・フダンシー)

 祝・新元号! 平成はBLを取り巻く環境も大きく変わって、メディアで見かけることも増えてきましたね! 令和ではどんな面白い作品が出てくるのか楽しみです♪ 今回は「和」なBLをテーマに、ということで、こちらの作品を紹介させていただきます。

 崗田屋(おかだや)愉一さん「千」シリーズ(白泉社)

 まず読了後に感じたのが、こんなにじっくり読んだBLって初めてかも……ということ。深く繊細に設定された世界観、心に響くストーリーとそれを彩るキャラクター。BLという枠を超えて楽しめる作品だと思いました。

 江戸時代のような雰囲気の漂う架空の日本を舞台に、隣国へ嫁ぐことになった姫の護衛の任に就いた剣豪・草薙と、隣国から派遣された謎多き座頭・千載(せんさい)の出会いから物語は動きだします。草薙はこの任務が終われば自国に戻り、剣術の師範に落ち着く予定だったのですが、千載からこの婚姻の真相を知ることになり……そんな縁から二人の長い旅が始まることになります。

©岡田屋鉄蔵/白泉社

 ストーリーは各地を巡る二人を軸としながら、1話ごとにオムニバス形式で進んでいきます。芸人の一座、天狗、絵師など……彼らが出会う人々は切なく辛い境遇にいながら、大切な人への想いを哀しいほどに抱えています。これだけでは悲しいお話の詰め合わせになってしまいますが、この作品の肝となるのは千載の存在です。実は彼は人知を超えた能力を持ち、無念や強い願いを持つ者の魂と引き換えにして、その願いを叶えることができるのです。不思議な力で悪しき者を裁き、報われない想いを救っていく様は、まさに勧善懲悪でスッキリしつつ(笑)、一つひとつの不遇な愛がそれぞれ感動的な結びを迎えるのもジーンとなります。個人的に一番好きだったのは力士と絵師のお話でした。

 さらに魅力的なのが、主役を含めた登場人物たち。千載ははんなりとした京ことばや時折見せる影、魂を喰ったときに背中に背負う刺青など、艶っぽさてんこ盛りで、草薙は無骨な見た目ですが、曲がることのない武士の心を持つ渋い漢という感じでかっこいいんです! 各話で出会う人々もそれぞれ個性的かつ、人情味溢れるキャラクターばかりです。また、崗田屋さんといえば「タンゴの男」(宙出版)でも魅せた肉体美!! 濡れ場に重きを置いた作品ではないですが、筋肉のしっかりとした体が絡み合うシーンは美しさを感じるくらいで、ため息が出ちゃいました!

 梅雨に向かうシーズン、重厚なストーリーを楽しみたい方には是非おすすめです。この作品は未完で二人はきっと今も旅を続けながら誰かを救っているのでしょう。いつか続きを読める日が楽しみです。

人の心の闇を描いた昭和なファンタジーホラー(貴腐人)

 新しい時代に移り変わり、最初のテーマが「和」。「和」ということで今 市子さんの「幻月楼奇譚」(徳間書店)をご紹介します。

 限りなく昭和初期に近い時代、老舗高級味噌屋の若旦那・鶴来(つるぎ)升一郎が連れて行かれたのは吉原の茶屋「幻月楼」。そこで出会った、芸事はからっきしだが怪談話だけは一級品という変わった幇間(たいこもち)・与三郎に升一郎は興味を持ちます。

 のっけから主人公・升一郎の父親の葬儀で、胡散臭い事件が続く中、升一郎が頼りなさすぎて亡くなった先代主人の父親が成仏できないから祟られているのではないかと噂されます。
 実は先代が事故死だったのを幸いに、親戚が自分の息子を新しい主人に収めたくて画策していたのです。そのため、升一郎も与三郎も命を狙われる羽目に。

 昭和初期のファンタジーホラー。怖いのは祟りでも妖かしでもなく、人の心。
「鶴来屋」の跡取り問題で事件が起こるのも人の心のせい。芸無し幇間といわれる与三郎の体には無数の刀傷があり、その傷ができた原因も人の心。

「幻月楼奇譚」©今 市子/徳間書店

 そんな心の闇を美しく描かれる今先生の画力に圧倒されます。ホラーだから血がどばっ、白骨遺体がごろごろなんてページもいっぱい。でも、美しいんです。

 原画を見たことがありますが、めっちゃ繊細なんです。ラフに描かれているように見えて繊細。その画力があってこそのファンタジーホラーなんです!

 私的に残念なのは、あまりBLっぽくない事。升一郎が与三郎にちょっかいを出しますが、与三郎は必死でかわすから、なかなか進展しない。いや、それでもうっかり絆されて憎からず思うようにはなるので、慎ましやかでプラトニックなBLだと思っています。

 でも作品自体はBLよりファンタジーホラーがメインで二人の関係は彩りですね。

 泉 鏡花がお好きな人には受けるかも。現在5巻まで発売中です。