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年を取る感じ 柴崎友香

 手元の小さい文字が見えづらくなった。

 コロナ禍で外出が減ってスマホやらパソコンやらの画面を見る時間が増えて目が疲れるのでこの二年ほどで急に実感しているが、ともかくも加齢だろう。これが老眼かー、と未知の経験を観察している。

 同世代の友人と会っても、ほんまに見えへんやんな! 新聞読むのに眼鏡外してんのなんでやろって思ってたけど自分もやってこれか! ってなるな、お母さんが針に糸通されへんから代わりにやってって言うてたんはこれなんや! などと言い合っている。半年前に久々に会った友人が同意してくれてうれしかったのは、字が見えへんだけかと思ったら食べものが見えへんやんな、だった。これは友人も私も近視でコンタクトレンズを使用しているからで、そうすると外食などできれいに盛りつけられたおいしいものを近づいて見たいのにはっきり見えない経験があったのだった。

 老化ってこんな感じかってちょっとおもしろいです、と年上の人たちに言うと、そんなのまだまだですよ、おもしろがっていられるのは今のうちですぐに困りごとが増えてそんな余裕はなくなるよ、と返ってきた。それはその通りだろうと思う。今の私の状況などほんの入り口にすぎない。

 それでも、若い頃に気になっていたこと、不思議に思っていたことが、体感としてよくわかるのは貴重な経験である。そうか、だからこうしてたんやな、それでこれは難しいんやな、と。それを助ける道具を作っといてくれた人ありがとう! とも思う。

 自分と違いのある人がなにに困っているのか、知ることができるのは人間にとってとてもだいじな、与えられた能力に違いない。そうやって「人の経験」に思いを寄せ、想像したり考えたりできることが、人が身の回りの生活や社会を少しずつでも工夫したり改善したりしてきた大きな理由なんだと思う。=朝日新聞2023年3月1日掲載