季刊誌「発達」は、ホームページによれば、乳幼児期の子どもの発達やそれを支える営みについて幅広い視点から最新の知見を届ける雑誌。
毎号、保育者へのロングインタビューや具体的な事例研究に多くのページを割いていて、理論に頼らず、現場の声や経験を多く拾いあげながら、実践的知恵を見出(みいだ)していく姿勢に読み応えがある。
最新号では第2特集の「インクルーシブな保育へ」がとくに印象深い。一般に「インクルーシブ保育」は「障害のある子どもが、障害のない子どもとともにクラスの集団の中で生活し、学ぶこと」を追求しているが、ここではそういった従来の障害児教育からさらに進めて、「その子のまわりにいる障害のない子どもたちにとっての意義も確認し」保育そのものを見直すことを目指す。
と言われてもピンとこないけれど、本誌に載っている事例を読めばよくわかる。
クラスの輪に入らず一人で絵本を読んでいる子どもへの対応、遊びが楽しくていつまでもやめない子どもへのかかわり、人とのやりとりが苦手な子どものお店ごっこへの参加に寄り添うこと、楽しく遊んでいる子どもの邪魔をする子どもとの接し方など、どの事例も細やかで、その子本人の納得だけでなく、まわりの子どもたちがその子を受け入れられるよう配慮している。そんな保育者たちの向き合う姿勢には感動すら覚えた。
「子どもに変わることを求めるのではなく、保育者が変わろうとする保育がなされていることが、重要」という言葉が出てきて、なるほどと思うものの、いったいどれほどの想像力が必要なのか見当もつかない。
「自身のなかに積み上がっている予測や仮説を『一旦(いったん)置いて、目の前の子どもたちに合わせようとする』ことは、言葉で表すよりも実は難しい」のは本当にその通りだろう。
ほかにも「幼児の気になる行動に注目しがちだが、『どんな気持ちなのだろう』と行動に至るまでの幼児の思いを考えることはとても大切」など、本誌には多くの気づきの言葉がちりばめられている。
連載記事「人との関係に問題をもつ子どもたち」に登場する自閉スペクトラム症(ASD)のAくんの話も印象に残った。
保育園で先生の言うことを聞かないうえ、勝手にいなくなったりする「困った子」だったAくんだが、発達支援の事業所に通い、本人の自発的・主体的遊びを支援していくなかで、本人自身が成長し、問題行動を乗り越えていった。
「(本人の)好きにさせるのは勇気のいること」と語る指導員は、はじめは「問題行動がエスカレートしていったらどうしよう」と不安だったそうだが、「今は、Aくんを信じることができてよかったと思っています」とふりかえる。勇気づけられる人の多い記事だと思う。=朝日新聞2023年3月4日掲載