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先生玄関をご覧ください 津村記久子

 土日の二日間をかけて、玄関を片付けた。新しい単行本のサイン作業で百冊単位の本が送られてくる予定があったので、一時的に玄関に置くために片付けることにした。

 片付ける前は、だいたい四か月分ぐらいの送付物を溜(た)めていたので、大変なことになっていた。外に積まれたり散らばっているだけではなく、靴箱の収納棚の上から下まで、開封に急を要さない書類、雑誌、本、それらを運んできた封筒などが詰め込まれていた。外には収納棚に入れられない段ボール箱、中身だけ出して置きっぱなしにしていた外装の箱がひしめいていた。

 まとまった時間を取ったわけではなく、「冷蔵庫を開けに行ったり、トイレに行ったりなどで玄関の近くを通るたびに、三つ何かを片付ける」と決めて二日間を過ごしたら、なんとか片付いた。一日にどれだけ冷蔵庫を開けに行ったりトイレに行くんだよ、ということは置いておくとしても、動くたびになんとなく三品片付けるということにしておいて、自分自身に「片付ける」というプレッシャーをかけないように気をつけた。

 それからだいたい一か月近くが経過したけれども、玄関は一応片付けた当時の見た目を保っている。すごく簡単なことだったのだが、カッターナイフとはさみを玄関に置くことで、送付物への対応が早まった。

 一気にやる、のではなく、なんとなく続けてやる、が自分には合っていたのかもしれない。自分が怠け者なのは知っているので言いにくいけれども、わたしは実はこつこつ型なのだ。小説を書くのも本当にこつこつだ。むしろこつこつ以外ではやることができない。一網打尽とか本当に無理だ。子供の頃はこつこつやるなんて程遠かった。小学校低学年の頃の先生が、「努力」とか「こつこつ」が好きだったような記憶があって、わたしは先生の言うことと自分自身との落差を悲しんだものだった。今は先生にちょっと見て欲しい。小説よりはうちの玄関を。=朝日新聞2023年3月15日掲載