1. HOME
  2. コラム
  3. コミック・セレクト
  4. 斎藤なずな「ぼっち死の館」 独居老人の日常、達観した明るさ

斎藤なずな「ぼっち死の館」 独居老人の日常、達観した明るさ

(C)齋藤なずな/小学館

 不穏なタイトルだがミステリーではない。ただし、次々に人は死ぬ。なぜなら、独居老人ばかりの古い団地が舞台だから。救急車の音に「又(また)、誰か倒れたぞ!」と思い、しばらく前に世間話をした人の訃報(ふほう)に「あんまりビックリもしないな…年寄りが死ぬのは当然だもんね 私含めて…」と苦笑する。

 そんな団地の住人たちの日常のドラマといえば、暗く重苦しいものを想像するかもしれない。しかし、本作はどこか達観した明るさがあり、一種のおかしみすら漂わせる。その中心となるのが、作者自身を投影したかのような漫画家と井戸端会議仲間。そこで飛び出す「満鉄お嬢」「DJJ(団塊ジーンズじじい)」といったあだ名に笑ってしまう。妻に先立たれた男たちのヘボさも憎めない。

 老いは誰にも等しくやってくるが、それぞれの人生が刻まれた顔の造形が最高だ。猫やカラス、牛や蝶(ちょう)などの動物に託される生と死のイメージも鮮やか。登場人物の多くは、配偶者のみならず大切な人を亡くした経験を持つ。独身者にも個別の事情がある。皆いろんな思いを抱えながら、老齢まで生きてきた。それ自体に価値があり、祝福されるべきことなのだ――と本作は控えめに主張する。=朝日新聞2023年3月18日掲載