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BL担当書店員が青田買い!「期待のニューカマー2022」

暗闇を生きる孤独な2人の恋物語(井上將利)

 2022年10月、ある一冊のBLが発売された時の衝撃は半年たった今でも薄れることなく僕の記憶に焼き付いています。それは、もりもよりさんのデビュー作「君の夜に触れる」(シュークリーム)でした。作者の方は漫画を描くこと自体が初めてのことだったと何かの記事で見かけたのですが、いやいや、なんて完成度! とんでもない作家さんが出てきたぞ……と胸が躍りました。

 元々イラストを描かれていたということでそちらも幾つか拝見しましたが、柔らかくも力強い印象でキャラクターが光をまとっているような、何か神聖なものなんじゃないかと感じる程のインパクトでした。

 そして本作のテーマはそんな光と対極にある「暗闇」。物語は殺し屋として生きる千夏が街中でひったくりの被害にあった盲目の青年・佳澄を助けるところから始まります。ところが2人が出会うのは今回が初めてではないのです。5年前、千夏は殺しの仕事で兄を失いました。そしてその場に居合わせ、千夏に手を差し伸べた少年が佳澄だったのです。目の見えない佳澄はその事実を知らないのですが、彼の眼差しを見た千夏はすぐに気付きました。

 その後、佳澄を助ける形になった千夏は佳澄の「友達」として関係を築いていくことになります。千夏が「この瞳がずっと焼き付いて離れなかった」と言うように、佳澄の透き通るような眼差しは本当に印象的で、目が見えないはずなのにじっと見つめられるような、そして心の内側まで見透かされるような感覚を覚えました。

もりもより「君の夜に触れる」より © Moyori Mori/ShuCream Inc.

 千夏自身も殺し屋である自分の闇に囚われながら、盲目という暗闇の中でも懸命に生きる佳澄との違いに苦しんでいきます。この雨の縁側の場面はまさにそんな2人の対比を表現しているようでした。

 そして本作では2人の会話や行動の一つひとつに細かな表現が施されているのも見どころの一つ。目の見えない佳澄に代わって言葉で伝える千夏。さらに、匂いや手触りといった、当たり前のようで忘れがちな「感覚」を佳澄が我々に教えてくれます。

 闇を抱える殺し屋と盲目の青年、交わるはずのなかった2人が出会ってしまったことで運命は動き出します。

 デビュー作から大変読み応えのある作品。作者の今後のご活躍も今から楽しみです!

恋愛低温男子の初めての恋(原周平)

 「おっ」と気になった作品が、知らなかった作家さんのものだと、どんな世界が広がっているんだろう、とワクワクします。好きな作家さんが増えると楽しみも増えますね! 今回は最近出会えたこちらの作品をご紹介します。

 カジスさん「たゆたう琥珀」(海王社)

 恋人を作るなんて、誰かと特別な関係になるなんて面倒と考えている的井。セフレに本気になられてもバッサリと切り捨ててしまうドライな彼が、デザイン事務所に入社して先輩の中野と出会い、変わっていくお話です。

 仕事終わりに呑みに出た2人。的井が終電を無くしてしまい中野の家にお泊りすることに。酔っていたこともあり、ひょんなことからカミングアウト→キスをしてしまい、少しずつ中野のことを意識するようになっていく的井。今までは誰かと関係を持っても、終わればその次の誰かを見つけて、それで良かったのが、中野だけは違う。初めての恋を自覚し始める様が良いですよ~!

 中野も男性経験があるわけではなさそうですが、的井のことはほっとけない感じから、それ以上に気になる存在になっていたようで……。

カジス「たゆたう琥珀」(海王社)より ©カジス/海王社

 このセリフとちょっと照れた表情、空気感が伝わるコマ割り、すごく良かった……!

 中野の面倒見の良さや、嫌みなくごく自然体に行動できるところが男前で、理想の先輩像のお手本にしたくなるような人です。そんな彼に変えられていくことに怯えながらも、変わりたいと願った的井。的井にとっては大きな決心が必要だったんじゃないかと思います。

 恋人になってからの的井がまたかわいいのなんの。初めての恋愛に戸惑いを隠せないながらもラブラブな的井の新しい一面を堪能できるので是非読んでみてください。おおらかな大型犬と、好きな人には実はめちゃくちゃ甘える猫みたいなカップルで、これからを応援したくなります♪

 カジスさんは本作がコミックスデビューだそうですが、クリーンな線で描く絵がとても読みやすくて、表情一つで感情までちゃんと伝えてくれる作家さんだなーと思います。あと、頭の後ろあたりからの目線だったり、部屋の背景の細かさだったり、構図がとっても上手でおしゃれで、デザイン会社で働く若者のラブストーリーにぴったりな絵柄が読み手を作品の世界観へと引き込んでくれますよ!

 同時収録の「YOUR HOME」は安東と能登のカップルのお話。人たらしな安東にやきもきしながら、分かりやすい愛をもっと欲しがってしまう能登。試しに1週間別れてみたらどうなるか、という短編なのですが、これもまた良かったです! それぞれ自由に過ごしていいという条件にしたものの、結局お互いのことを考えてばかりな2人が絆を確かめ合う様子が短いストーリーの中にもキュッと詰まっていました。

 どちらのお話もテンポ良くまとまっているが故、もっと読みたい感じになっちゃいましたが(笑)、それぞれ違った恋模様が垣間見えて楽しめるのでオススメです。次の作品も楽しみにしたいと思います!