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横関大さんがフィリピン人女性と歌った「ボルテスⅤの歌」

フィリピン・マニラのにぎやかなストリートマーケット©GettyImages

 私の父は建設業に従事していたのだが、たまにテレビの仕事に大道具として関わっていた。主に手がけたのが脱出モノで、ビートたけしを脱出させたこともあるらしい。

 小学校低学年くらいの頃、私は父に連れられて山梨県富士吉田市にある富士急ハイランドに行った。父の仕事に同行する形だった。記憶があやふやなのだが、多分綱渡りの世界的権威が来日し、その撮影をおこなうことになり、父も何らかの形でそれを手伝っていたのだと思う。父は仕事のため、私は暇だった。かといって子供一人ではアトラクションに乗らせてもらえず、園内を彷徨っていた。そんなとき、ショーのようなものに遭遇した。ステージの上で女の人が伸びやか声で歌っていて、私は遠巻きに鑑賞した。

 最後に即売会的なこともやっており、女の人の歌声にいたく感動した私は、なけなしの小遣いをはたいてレコードを購入した。多分500円くらいで買えたセルロイド製の薄っぺらのレコードだ(調べてみるとソノシートというらしい)。実はこれ、私が生まれて初めて買ったレコードである。

 家に帰り、そのレコードを聴いた。躍動感があり、ポジティブな気分になる良い曲だった。何度も何度も繰り返し聴き、そらで歌えるようにもなった。その曲は『ボルテスⅤの歌』。テレビアニメ『超電磁マシーン ボルテスⅤ』のオープニング曲だ。小林亜星が作曲していることを後年知った。学校帰りに口ずさんだり、自転車に乗りながら大声で歌ったりと、私にとっては思い出の曲となった。

 ボルテスⅤは1977年から78年にかけて放送されていたロボットアニメで、私はオンタイムで視聴したわけでもない。おそらく富士急ハイランドで私が目にしたのは、歌い手さんの営業ではないかと推察できる。ボルテスⅤの主題歌を担当していたのは堀江美都子さん。アニソン四天王の一人と言われ、数多くのアニメソングを歌っておられる凄い方だ。

 時は流れる。私は大学卒業後、都内の飲食店でフリーターをやっていた。そこの社長にはフィリピン人の恋人がいて、名前はスーザンといった。可愛らしい女性だった。定期的におこなわれるスタッフの飲み会にも必ずスーザンはやってきた。ある飲み会の席上で、突然カラオケから聞き覚えのあるメロディーが流れ始め、私は驚いた。何と『ボルテスⅤの歌』の前奏ではないか。スーザンがマイクを持ち、「誰か一緒に歌おう」的なことを言っていたが、全員が首を傾げていた。誰もボルテスⅤを知らないのだ。

 体が勝手に反応した。私はマイクを持ち、『ボルテスⅤの歌』を熱唱した。まさかカラオケでこの曲を歌う日が来るとは思ってもいなかった。スーザンは大喜びだったが、なぜ彼女が『ボルテスⅤの歌』を知っていたのか、それは最後まで謎だった。

 さらに時が流れ、今年の正月。私はネットニュースでその記事を発見した。「アニメ『ボルテスⅤ』が実写リメイク。フィリピンで年内に放送決定」というものだった。実はボルテスⅤはフィリピンにおいては国民的人気アニメであり、その日本語の主題歌を多くの国民が歌えるという。この記事を読んだ私はスーザンのことを思い出し、同時に腑に落ちた。思えばスーザンは怪訝そうな顔つきをしていた。彼女からしてみれば「どうしてこの人たちは日本人のくせしてボルテスⅤを歌えないのか」という素朴な疑問を感じていたに違いない。

 ちなみに実写リメイク版の予告映像を視聴したのだが、かなりのクオリティだ。半端ない愛情を注ぎ、フィリピンのクリエイターたちはボルテスⅤを製作している。予告映像では『ボルテスⅤの歌』は流れないが、本編では堀江美都子さんの歌声が聴けることを期待したい。