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「男社会をぶっとばせ!」書評 「女版野郎ども」におくるエール

評者: 山内マリコ / 朝⽇新聞掲載:2023年05月06日
男社会をぶっとばせ!反学校文化を生きた女子高生たち 著者:梶原 公子 出版社:あっぷる出版社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784871773645
発売⽇: 2023/03/27
サイズ: 19cm/189p

「男社会をぶっとばせ!」 [著]梶原公子

 90年代の女子高生というと援助交際にコギャル、記号的に語られるのが常だった。また近年は、深刻な貧困を生きる少女たちのルポも多数出版されている。その一方で、「普通」の女性たちの人生が書籍にまとめられることは少ない。
 本書は、ある地方都市の県立女子高校に勤めた元教員による手記である。体罰も辞さない80年代の管理教育の終焉(しゅうえん)から、自由な校風に改まった90年代半ばまで。あのころ輝いていた、勉強が嫌いで素行も悪い、底辺校の女子高生たちの実像をふり返っていく。
 英国の労働階級の少年たちを調査した『ハマータウンの野郎ども』にならい、著者は敬愛を込めて〈女版野郎ども〉と呼ぶ。彼女たちはいとも容易(たやす)く教師たちの高邁(こうまい)な志をくじくほどパワフルだが、恋愛から妊娠までのスパンが短く、卒業後は多くができちゃった婚に至る。結婚は女性にとってセーフティネットとして機能する反面、否応(いやおう)なしに男性の劣位に置かれる奈落でもあるが、それを教えるのは至難の業だ。
 かくして彼女たちのその後の人生は、女子高生でいる間は免除されていた女性差別との格闘となる。現在、45歳になった教え子たちをヒアリングする後半は、地方で普通に生きている低学歴の女性という、サイレントマジョリティの声を拾った貴重な記録である。
 同時代に女子高生だった一人として言うと、たしかにあのとき、私たちは自由だった。そして、女性の人生は実際に生きてみない限り、痛みや理不尽さがわからないようにできている。今なら学校の先生とどんな話ができるだろう、そんなことを思いながら読んだ。
 著者は高学歴女性が男社会を支える構造を見抜き、〈女版野郎ども〉にその突破を期待する。現在の彼女たちが明かす人生は題名ほど威勢のよいものではないが、看板に偽りあり、ではない。これはきっと先生から今の彼女たちへ、希望を込めたエールなのだろう。
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かじわら・きみこ 1950年生まれ。元高校教員。退職後、女性の労働問題などをテーマに取材執筆を続ける。