草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり(文・谷本雄治、絵・大野八生)
「日本の植物学の父」と呼ばれた牧野富太郎(1862~1957年)は、「草を褥に木の根を枕 花と恋して九十年」と自らを歌に詠んだほど、植物を一途に愛しました。独学で日本初の本格的な植物図鑑を作り出したことでも知られています。本作は、そんな牧野の植物一筋の人生を描いた伝記絵本です。巻末には、国立科学博物館植物研究部研究主幹・田中伸幸さんの解説を収載。見返しには、バイカオウレンやスエコザサなど絵本に描かれた牧野ゆかりの植物の紹介や牧野の年譜もあります。放送中のNHK連続テレビ小説「らんまん」とあわせて楽しめる一冊です。
たんぽぽ(作・荒井真紀)
身近な草花の代表格・タンポポのことをどれだけ知っていますか? 『たんぽぽ』は、美しい細密画でタンポポの一生を描いた絵本です。タンポポが冬の間は地面に葉を広げて過ごし、春に花を咲かせて綿毛となってタネを飛ばして根付くまでを、徹底的に観察して描いています。さまざまな植物の絵本を手がけてきた作者の荒井真紀さんは、必ずじっくり時間をかけて観察をしてから絵本の制作に取り掛かると言います。圧巻なのが、見開きいっぱいに描かれた200個もの綿毛たち。一つひとつ、できる限り観察しながら描いたとのこと。荒井さんは本作でブラティスラヴァ世界絵本原画展・金のりんご賞を受賞しています。
ざっそうの名前(作・長尾玲子)
ある夏の日、おじいちゃんのうちへ遊びに行った太郎くんは、庭や畑のまわりにたくさんの草花を見つけます。それらは、いつの間にか生えていた雑草の草花。ヒメジョオンやトキワハゼ、イヌビエなど、太郎くんはおじいちゃんに雑草の名前を一つずつ教えてもらいながら、個性豊かな雑草との出会いを楽しんでいきます。ふだん見過ごしがちな雑草の名前を知りたくなると同時に、どんな草花にも名前があることを改めて思い出させてくれる絵本です。そして、すべての絵が刺繍で描かれているのも本作の魅力の一つ。一針一針ていねいな刺繍で描かれた雑草からは、写真や絵とは違うリアルさやあたたかみが感じられます。
じっちょりんのあるくみち(作・かとう あじゅ)
数ミリに満たない体に虫のような触角がある、謎の生き物「じっちょりん」。パパ、ママ、兄、妹の4人家族で、花びらや葉っぱを食べて団地のすみっこで暮らしています。ある日、どんぐりの帽子で作った「たねかばん」が種でいっぱいになったので、団地の外へ。コンクリートの道や壁の小さなすき間などに種を植えて回ります。絵本には、ハルジオンやカタバミなど街中で見かける草花たちが名前とともに描かれているので、ちょっとした図鑑のよう。私たちが道端で目にするちいさな草花は、じっちょりんが種を蒔いてくれたから目にすることができるのかもしれません。
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リパの庭づくり(作・福井さとこ)
愛猫マリーがいなくなって気落ちしたリシュカおばあさんの庭は、春になっても荒れ放題。庭師のリパは、おばあさんを元気づけようと、ツタを切ったり土づくりや植え替えをしたりと庭の手入れを始めます。野鳥のシーコルをはじめ、ハチやクモ、テントウムシら生き物たちの力を借りて、少しずつ甦っていく庭。春から夏にかけては、ツユクサやカモミール、バラ、紫陽花……と順々に花が咲いていきます。季節の移り変わりとともに変化していく庭の美しさを見ていると、五感をフル稼働して本物の草花を愛でに外へ出かけたくなります。