「普通の親」「普通の家族」って何?(井上將利)
今回は「家族」や「子育て」と言ったキーワードで作品を選ばせて頂きました。ご紹介するのは、ろじさんの「ぼくのパパとパパの話」(リブレ)という作品です。文字通り2人のパパが登場する本作では同性婚が認められた世の中で特別養子縁組により子供を授かった、ある家族のお話となります。自由奔放で何事も堂々とオープンにする性格の小田原愛と少し繊細で複雑な家庭環境で育った三浦奈央、両極端な性格の2人は大学時代からの恋人でした。そしてこの度、籍を入れ、彼らはひろ君という子供を授かります。
2人のパパと0歳児の生活が始まっていく中で、子育てに悪戦苦闘しながらも新しい感情や幸せの形を見つけていく2人の姿が人間味あふれる描写で描かれていきます。その中で奈央は客観的に見ればマイノリティである自分たちの家族の形について世間や周囲の視線を気にしてしまい、それ故に「良い親でなければ……」と自分を追い詰めていってしまうのでした。
パートナーの愛はその様子に気付きながらも、彼とは正反対の性格(ゴーイングマイウェイ!)なので上手く奈央と向き合うことが出来ず、2人の関係もギクシャクしていきます。
「普通の親」、「普通の家族」ってなんだろうともがく2人ですが、そんな時、ひろ君の存在が彼らに光を灯すように。子供という鏡を通じてお互いを理解していく、そんな大人たちの成長が描かれています。
そして本作で描かれる子育て、ひろ君に振り回されるパパたちには思わず共感してしまいました。最強の存在として家に君臨する0歳児、何もかも初めてのあれこれでパニックになる2人を見ていると、いつぞやの自分を思い出しました。子供の風邪は瞬く間に家庭内でパンデミックするんです。そして子供が先に治るんです(笑)。
また、個人的に一番刺さったのは、保育園のママ友さんが愛と奈央に、親だからできて当たり前のことなんて何もないこと、子育てをする者同士として「毎日えらいんですよ 私たち!」と伝えたシーンでした。普通とかそういう事ではなく、大切なパートナーと子供のために懸命に生きる自分を認めてあげること。それが親としての第一歩なのでは?と、僕自身そして彼らもそう感じたんじゃないかなと思った印象的なシーンでした。
自分は自分、他の誰でもない。そんな大事なことを思い出させてくれるお話。そして3人が家族になっていく様を是非、一緒に見届けてほしい作品です!
恋愛以上の絆で結ばれた2人の幸せに包み込まれて(原周平)
子連れBLの魅力って、子供の愛らしさももちろんですが、キャラクターに“父性”がプラスされるところもあるような気がしています。包み込んでくれるような「パパみ」を感じる作品に出会ったので紹介します♪
池森あゆさん「多分これから愛の日々」(ジュリアンパブリッシング)。
連載打ち切りにあった伊藤彬央(通称・アキ)は、漫画家の道を諦め派遣社員で生計を立てていました。ある日、偶然再会したのは、高校時代の後輩でオタク仲間だった大隈大翔(通称・クマ)。クマは小説家になっていて、離婚はしてしまったけれど、悠太と愛美という双子を育てるシングルファーザーとして頑張っていました。
自分の漫画家としての10年は何だったのか、クマとの差を見て惨めさを痛感するアキに、「アキ先輩の描いたものがこの世界で一番好きです」と優しく寄り添うクマ。そんな中、仕事先が倒産し自宅も立ち退きせざるを得なくなる、という不幸の連続に見舞われたアキはクマを頼り、2人と子供たちの同居生活が始まります。
上下巻の本作、2人の恋愛はもちろん、アキの再生の物語としてもとても良かったです。回想を交えながら2人のバックグラウンドが丁寧に描かれていて、展開の唐突さもなく自然と入ってくるので、すーっと没入できました。
一緒に暮らす中で見えてくる、疎遠になってからのクマのこれまでの人生と、アキに対して抱いていた特別な思い。成功していると言えるクマにも様々な苦労や葛藤があったんだろうな、と思います。憧れが恋心だったと気付いてからアキと再会できたことで、偽りなく直球で気持ちを伝えるクマのひたむきさや温かさがとても良いです。
というか、作中にクマの名セリフがめちゃくちゃ多くて、アキにとっては間違いなく嬉しいだろうし、読んでいる側も自分を信じてあげなくちゃ、と思わせてくれるくらい、素敵なキャラクターで大好きになりました。
そして双子の悠太と愛美の可愛らしさよ! 初めからアキに懐いてくれて、やさぐれたアキをほっこりさせたり、たまにハッと気付かせることを言ったり、シリアスなシーンも多いストーリーに癒しをくれる、まさに天使です(笑)。
アキは大きな挫折を味わったことで何かと卑屈になってしまうのですが、そのたびにクマが励ましてくれて、少しずつ変わっていきます。何度も打ち切りになって誰からも作品を読まれていないと自信を失っていた中、クマだけはいつも自分を認めてくれる。枯れかけてしまっていたクリエイターとしての気持ちが蘇ってくるシーンの描かれ方も印象的で好きです。
恋愛以上の絆みたいなものを感じる2人の姿、最後はとっても感動的で、タイトル通り、“多分これから愛の日々”がずっと続いていくと信じさせてくれる、すがすがしい読後感でした~! たっぷり幸せに浸りたいときにおすすめしたい作品です。