早稲田大の一般教養科目として16年続ける講義を書籍化した。最新のデータをふまえ、ロシアや中国、中東などのしたたかな戦略も掘り下げる。化石燃料の話だけでなく、再生可能エネルギーが日本の未来を占う可能性も解説。ウクライナ戦争で関心が高まるエネルギー問題を考えるための知識を整理した、大人の教科書だ。
日本サッカー協会専務理事を経て、同大の教員に。元横綱稀勢の里や伊達公子さん、駅伝の原晋(すすむ)さんらアスリートの研究を指導した「スポーツの先生」で知られるが、元をたどれば通商産業省で石油利権交渉などにがっぷり四つで取り組んだ、エネルギー政策のエキスパートだ。
教員になった際、「エネルギー問題を俯瞰(ふかん)的に語れる人がいない」と請われ、講義が始まった。定員500人の履修に倍の申し込みがある講義では、「日本は、世界は、どうすべき」というべき論や主張をほぼ封印している。「学生は興味を持ってくれれば、驚くほど勉強して1日で別人のようにピカッとなる。あまり色をつけず、自分で考えるきっかけをあげるだけでいいんです」。本書でもそのスタンスは踏襲している。
スポーツとエネルギーという一見遠い分野でも、結びつきは強いという。「たとえば、ここ最近のサッカーのワールドカップ開催地は、ブラジル、ロシア、カタール……いずれも有数の資源国です」。エネルギー資源の輸出による国富はスポーツビジネスも左右するのだ。
20代の官僚時代、ある高名なデザイナーに言われた言葉が今も頭に残っている。「平田さんは、一つのことばかりやっていると独創性が落ちるから、複数のことを同時並行でやるべきだよ」
二刀流で研究に臨むいまの姿を予見していたかのようだ。=朝日新聞2023年5月27日掲載