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「我、過てり」 しくじりで描く戦国期の男たち 谷津矢車が薦める新刊文庫3点

谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『我、過(あやま)てり』 仁木英之著 ハルキ文庫 880円
  2. 『刀と傘』 伊吹亜門著 創元推理文庫 814円
  3. 『織田一(おだいち) 丹羽五郎左(ごろうざ)長秀の記』 佐々木功著 光文社文庫 792円

 今回は「男の戦い」をテーマに選書。

 伊達政宗、村上義清、岩見重太郎、立花宗茂といった戦国期の男たちを取り上げる(1)は、人生におけるしくじりとそこからの再起を描いたコンセプチュアルな戦国短編集で、四編それぞれ形の違う「しくじり」とその顛末(てんまつ)が描かれる。失敗談を主軸に置きながらも、著者が一貫して主人公に哀惜と愛情の眼差(まなざ)しを注ぎ続けているために、読後感はあくまで爽やか。武運拙(つたな)く負けた男の戦いの“華”を掬(すく)い上げて配置した、生け花のような作品。

 佐賀藩士で後に司法卿を務める江藤新平と尾張藩士で後に新政府に出仕する鹿野師光(もろみつ)を主人公にした(2)は、幕末明治期を舞台にした連作短編時代ミステリ。各話それぞれに示される不可解な謎とその解決、江藤・鹿野の役割が一編ごとに変化するといったミステリとしての見所はもちろんのこと、全編を貫く江藤と鹿野の合縁奇縁も本書の読み処(どころ)の一つ。謎、そして時代に挑む男たちの戦い、その戦いの果てに読者の目の前で名付けられる2人の関係性とは……詳しくは本書をお楽しみに。

 本能寺の変で織田信長が横死した後の織田家を「米五郎左(こめごろうざ)」こと丹羽長秀を主軸にして描き出す(3)は、『信長公記』の著者として知られる太田牛一(ぎゅういち)の語りで叙述されるところにユニークさがある。「あの太田牛一がなぜ丹羽長秀を語るのか」という謎が大きなフックとなり、隠れた大人物、丹羽長秀の戦いの日々と、その人間的魅力が浮かび上がる仕組み。=朝日新聞2023年5月27日掲載