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雑誌「BIOSTORY(ビオストーリー)」 知的興奮、伝わってくる学会誌

「BIOSTORY」

 以前、博物館でこの「BIOSTORY」を見つけて、パラパラとめくったときは、なんだか面白そうだなと思ったのと同時に、これはいったい何の雑誌なのだろうという疑問が頭をよぎった。

 生き物文化誌学会の学会誌という位置付けのようだが、そもそも生き物文化誌がわからない。とくに「誌」と付いてるところ。

 サブタイトルに「人と自然の新しい物語」とあるから、人間と自然、とりわけ生き物との間に培われた文化を扱うのだろう。「誌」はつまり、雑誌や書物のことではなく、人間とのかかわりの歴史を意味するのかもしれない。

 内容を読むと、たしかにその理解で大きく間違ってはいないようだ。

 今年は生き物文化誌学会創立20周年にあたるらしく、最新号の第1特集「生き物文化誌の現在・過去・未来」では、序論で「生き物文化誌はこれでよいのか」と問題提起がなされている。

 そのなかで会長の池谷和信氏は、生き物文化誌学は若い研究分野であり、生態学や文化人類学、考古学などのような市民権を得ておらず、現時点において、どのような研究分野であるのか、内容が定まっているわけでもないとし、動物のみならず、植物や微生物、妖怪のような架空の生き物さえも「生き物」の定義に含めていると語っている。

 なんとも幅広い話だ。最初に手にとったとき、面白そうだけどわかりにくいと思ったのは、そのへんも原因だったのだろう。

 過去の特集も、「ウミガメと人」「日本の野菜」「ヒマラヤにおける生き物と人」などはわかりやすいものの、「陰陽五行の生き物文化誌」「布 生き物からの贈りもの」「生き物としての富士山」「ミュージアムと生き物文化」などを見ると風呂敷は大きく広げられており、とらえにくい一方で、面白いものが出てきそうな予感も漂っている。

 個人的には、まさしく妖怪のような架空の生き物の話を読んでみたい。

 そういえば、昨年の号で読んだタンザニアの「毒ザル」の話は興味深かった。地域住民の間で唾液(だえき)に毒があるとか食べると死ぬと言われている猿がいて、その猿は炭を食べることが確認されている。毒を持つ猿など聞いたことがないが、研究によって「毒ザル」と呼ばれる理由と炭を食べることの関係性が浮かび上がってきたという。

 また最新号に掲載されている東南アジアのワニに関する論文も面白い。自分たちの祖先がワニであると信じ、ワニを食べると肌がワニみたいになると考える人々、女性がワニの卵を産む民話など、不思議な話がたくさん出てくる。

 どれも、ただ興味をかきたてるだけの浅薄な記事ではなく、読む側も踏み込んでこそ知的興奮が伝わってくる内容で、生き物文化誌の今後に大いに期待したくなった。=朝日新聞2023年7月1日掲載